預貯金の遺産分割

遺産分割協議

相続開始後、法定相続人が2人以上いれば遺産分割協議を要するケースがほとんどです。遺言書があって、遺産分割協議が不要な場合もあります。(遺言書があっても、内容が不完全だったり、無効だったりすると、遺産分割協議が必要となることがあります。)

預貯金と不動産

遺産分割するものはほとんど預貯金と不動産です。
不動産を分けるのは難しいことが多々あります。物理的に等分に分けても、有利・不利があるでしょうから遺産分割協議がまとまらないこともあります。

その場合の解決策のひとつに「換価分割」があります。不動産を実際に売却し、お金で分ける方法です。これはけっこうスッキリと分けられるはずです。不動産を受け継ぎたいという人がいなければ売却すればよいのですが、買い手がつかない場合もあります。

相続人のひとりが亡くなった人と一緒に住んでいて、相続対象の土地・建物に引き続き住みたいというような場合には、売ってしまっては困るはずですが、相続人の間で分割協議が調わなければ、たとえ困る人がいようとも売却するしかありません。
売りに出しても買い手がつかないような不動産なら代償分割しやすいと思います。
では、預貯金・現金は大丈夫でしょうか。

預金と貯金

預貯金とは、金融機関に預けてあるお金なので、分け方さえ決まれば簡単です。端数を切り捨てて計算しても問題ではないでしょう。

以前は、相続が開始すると、預貯金法定相続人の法定相続分どおりに自動的に分けられることになっていました。しかし、実際には亡くなった人が預けていた預貯金相続人が受け取りにいっても、銀行で事実上断られる(相続人全員の実印が必要などと、あたかもそれが法律の規定であるかのように話し、自分の相続分の引き出し等をあきらめさせようとする?)ことがほとんどでしたから、「自動的に分けられる」という規則(判例)も、普通は役に立たない規則でした。

私が実際に経験した2014年の例ですが、「通帳を持ってくれば入出金記録を出す。」とか「預金番号を正確に知らせれば入出金記録を出す。」というものでした。

入出金記録がほしいということは、相続人の間で問題が生じている可能性が高いわけです。入出金状態を知らない相続人と通帳を保管している相続人の間で遺産額について協議中で、しかもスムーズに進んでいないのでしょう。入出金記録を知りたい相続人は、銀行に入出金記録を請求し、通帳を持っている相続人は入出金履歴を知っていながら、他の相続人に開示を拒んでいるのかもしれません。

このとき銀行がすべての相続人に入出金記録をみせてしまえば、これをきっかけに不正が判明して遺産分割協議が急展開するかもしれません。入出金状態や遺産額が曖昧で、誰がいくらをどうしたのかが不明なままなら、事実がわからないのでトラブルの発生が未然に(?)防げます。

一方、預金通帳を持ってくるなどすれば、おそらく相続人の間で「入出金記録を取り寄せることに同意した」と思われます。それなら、銀行が取引記録を発行しても、相続人の誰かから責められる可能性は低くなるのだと思います。

このようなわけで、入出金が不明なために結果的に相続で「損をした人」「得をした人」がいたかもしれません。

亡くなった親の遺産は調べられるか

銀行の取引記録は、相続人全員の同意がないと見せてもらいないものだと勘違いしていた人が大勢いたと思います。親が数年前に特定の子だけにまとまったお金をあげていたというようなことがわからなかったのです。そうでなくても遺産額を特定することは困難なことが多いのに、一層難しくなったでしょう。

この場合、その子(相続人のひとり)が自分でキャッシュカードで引き出したかもしれませんし、親が自分で引き出してその子にあげたかもしれません。

入出金記録があっても、「このまとまったお金を引き出して何に使ったのか」が結局わからないことがあります。その子が正直に言わないかぎりどうにもならない可能性があります。裁判になっても解明できるとはかぎりません。

預金と貯金

  • ところで、「預金」と「貯金」に分ける意味はあるのでしょうか。
    預金は:銀行・信用金庫・信用組合・労働金庫などに預けたお金
    貯金は:ゆうちょ銀行、JAバンク(農業協同組合)やJFマリンバンク(漁業協同組合)

にあるお金です。

貯金とは、貯金箱に入れるようにためておくイメージです。貯金箱のお金ですから、このお金を資本金にして何か事業を起こそうとか、投資に使って利益をあげようなどとは考えないものです。

宵越しの金(カネ)

私が子供の頃は「計画的に貯金をしよう。無駄遣いせずに貯金しよう。」と言われました。手持ちのお金は、残さず使ってしまおうのは良くないことだと思っていました。「1日 10円を貯金箱に!」をモットーにしてみたこともあります。長続きはしませんでしたが。貯金が良いことだと信じていたからです。しかし、江戸時代は違ったようです。

江戸時代でも地域によって生活習慣が違うので、一概には言えませんが、たとえば江戸ではお金を貯めておこうという発想がなかったようです。「江戸っ子は宵越しの金は持たねぇ」(稼いだお金はその日のうちに使う。)というのはある程度事実だったようです。

江戸(江戸時代)では、とにかく物価が安定していました。江戸幕府は約260年ほど続き、幕末には物価が高騰したものの、それ以外では物価の変動はかなり少ないのです。銭湯の入浴料や蕎麦一杯の値段は260年間ほとんど変動がなかったそうです。物価が安定しているというのは非常に暮らしやすい社会といえるでしょう。

また江戸時代は税金が安いのです。税金を負担していたのはほとんどが農業に関するもの(年貢)でしたが、年貢を下げてほしいという一揆はほとんどなく、値上げ反対のための一揆だったようです。時代劇で、悪いお殿様やお代官様が私腹を肥やすために、農民(本当は百姓とよばないと失礼らしいです)から高い税金を無理やり取ったというのは、後世の作り話だそうです。そもそも農民の発言力は強く、幕府も農民を怒らせることは避けていたようです。

また、武士は儒教の影響で、お金に執着しないものです。江戸の人口の半数ほどが武士ですから、武士でなくても、お金を貯める(お金に執着する)というのはみっともなかったのでしょう。武士でないのに武士のまねをすることはなさそうなものですが、武士は貧しくとも人格者として尊敬されていましたから、武士のまねをして立派に生きようとした人が多かったのだと思います。

江戸では、物価が安定していて、税金は安く、武士の真似をして金銭に固執しませんでしたし、また、職人などは働く気になればいつでも金を稼げるので、貯金をする必要性も感じなかったようです。

明治時代になって国民の生活が一変します。税金が高くなり、物価が乱高下するようになったのです。それ以外にも、江戸時代を懐かしむ声がたくさんあったため、政府は江戸時代が暗黒の時代であったというキャンペーンをしたという説があります。もっとも、江戸時代が終わったのは世界情勢ですから、明治政府が悪かったのではありません。世界情勢に合わせるため、政府は税金以外にも資金が必要となりました。

そこで考えたのが郵便貯金で、この貯金から政府が資金調達・運用できるようにしました。郵便貯金が始まったのは明治8年です。庶民に「貯金箱」のように置いておいてもらうのが貯金です。

銀行等の「預金」は、企業や商人などに対する融資のために使われるものですから、貯金と預金ではまったく性質が異なっていたということです。

預金も貯金も遺産分割協議

現在の遺産分割協議・相続で、預金と貯金を分けて考える必要ないと思います。また、不動産等と同様に、平成28年12月19日の最高裁判所決定で、預貯金遺産分割協議の対象となることになりました。従来の慣例とほとんど変わらないので、最高裁判決を気にしている人は(専門家以外には)ほとんどいないでしょう。

これより以前は、
「原則として、預貯金は被相続人の死亡により、相続人らに当然に分割されて、遺産分割の対象とはならない。」
とされていました。
『えっ! 今までそういう規定だったのですか?』
と思った人のほうが多いかもしれません。
銀行で、自分が法定相続人だということを証明して、自分の相続分だけをもらってくることのできたきた人はほとんどいないでしょう。相続人全員の署名捺印等が必要だといわれたと思います。

そうしてみると、金融機関がずっと以前から、遺産分割協議前に法定相続人に持分どおりに支払うことをためらったのは、先見の明があったのだというべきでしょう。実務的観点から、法の規定の弱点をしっかり見抜いていたことになります。

相続開始後(どなたかが亡くなって、法律上の相続がはじまった場合)、以前は、遺産の中でも、法定相続人による遺産分割協議をせずに、自動的に各相続人のものになるものがありました。

  • 自動的に相続されるもの:通常貯金(定期ではないもの)・預金・定期預金
  • 自動的には相続されないもの:定額貯金・投資信託・個人向け国債・株式・手許現金(引き出しや財布に入っていた自宅等にある現金)

以前はこのように複雑でした。しかし、多くの人が知らない規定で、たいていは遺産分割の対象に含めていたので、最高裁の決定以前から遺産として分割協議の対象にしていた例が多いと思われます。

等分に分けるのではなく

そこで、たとえば相続人のひとりに特別受益寄与分がありそうな場合、預貯金法定相続分にしたがって分割する前に、預貯金の口座を「凍結」し、勝手に引き出せないようにしておいてから、遺産分割協議をして預貯金を分けるほうが安全です。

「安全」とは、一旦、預貯金を分けてしまって、それから特別受益の分を他の相続人に渡すとなると、スムーズに行かない場合があります。一般に、ひとたび誰かに渡った金銭を、その人の意向に反して元に戻させるとか、他の人に渡させるのは困難です。

相続人の間に信頼関係がないと、代表してお金を受け取った人が独り占めして、他の人に渡さないのではないかと心配する人がいます。(「独り占め」の心配の他に、「印鑑登録証明書を預けたくない」とか「実印(の印影)を見られたくない」「個人番号・マイナンバーを知られたくない」等の理由から、何かと気苦労が絶えません。一般的には杞憂だと思います。)

その場合、行政書士が相続人全員から委任を受けて、代理で遺産全部を受け取り、それを各相続人に分配するということもあります。

法律よりも協議が重要ですが

不動産・預貯金などの相続財産をどのように分けるかについては、法定相続分など法律の規定よりも、まず相続人の相談・協議が大切です。相続人のそれぞれの考えが一致せず遺産分割協議が調わない場合に、法律での規定を参照するものです。もちろん法律に違反してよいはずはありませんが、先に、相続人全員の希望を調整しましょう。(もし、遺言書があって相続分の指定がされていれば、まずそれを検討します。)

それでも調わなければ、訴訟等によるわけですが、費用がかかるので、たいていは法定相続分などの「法律どおりの規定」に落ち着くようです。

法律どおりの規定で解決しようとしても、遺産がいくらあるのか、特別受益をいくら受けたのかなどを隠していいる人がいると、法律の規定を当てはめようがありません。弁護士に依頼したり、訴訟を起こしたりすれば真実がわかると思っている人がいますが、必ずしも容易ではありません。

生前に誰かが特別にお金をもらっている場合などもありますので、それを言わないと真相がわからないことがあります。仕方がないので、私は「相続における誤差」と言ったりしています。

相続人の口座から現金を引き出してしまう人もいます。死亡直前のものはわかると思いますが、それでもひとたび引き出して誰かの手に渡ると、それを再度受け渡しするのは難しい傾向があります。引き出したのが8年前、10年前のことですとなおさらです。
相続人たちの間で、正直に言わずに誤魔化している人がいると、相続問題が尾を引いて決定的な亀裂が入り、その後の交流はなくなるかもしれません。

家族、親子、兄弟姉妹の絆は強いのか弱いのか、もちろんさまざまです。「あるべき姿」として法律があったり、道徳があったりしますが、「どんなことがあっても家族は家族。家族の絆は強い。」と自信を持っていえるかどうかは疑問です。

どうしても協議・譲歩が必要なことも

たとえば母は元気で、父が死亡した(父についての相続が開始した)場合、預貯金の同一口座に父の財産と母の財産が混ざっていることも考えられます。これを厳密に分けるのは困難なことがあります。

父の購入した美術品があったとしても、母が自分のものだというかもしれません。父と母が相談して購入した場合、この美術品は地価の半分だけが父の遺産なのか、それともすべてが父の遺産なのかがわからなくなることもあり得ます。

これが共同相続人全員の遺産分割協議で決まらなければ、最終的には訴訟でしょう。あまり現実的な話ではないとも思いますが、相続人さんたちの間で少しも譲歩できないとなれば仕方がありません。

使途不明金がある場合も、法律で決着が付けばよいですが、現実にはなかなか難しいと思います。やってみなければわからないでしょう。

遺産分割協議の方法

皆さんにそれぞれ不満はあることと思いますが、それでも協議と調整を続けていくかぎりは、行政書士がお力になれます。

面談には相続人全員でお越しいただかなくても大丈夫です。ひとり、ふたりからお話を伺って、まず草案・たたき台の書面(遺産分割協議書の草案)を作成します。それを相続人さん全員に見ていただいて、意見を集めます。必要があれば、草案を修正・・・という作業を繰り返します。

川崎市中原区の事務所ですが出張も可能です。
予約制ですので、メール・携帯電話にご連絡をください。簡単なお話をして、話が済めば無料相談ですし、さらに詳細をうかがう場合は有料相談となります。

有料相談の後、遺産分割協議書、念書、合意書、契約書、内容証明郵便などを作成する場合は、相談料はそれらの書面の作成料に充填しますので、相談自体の料金はかかりません。

また、弁護士事務所と違って「成功報酬」はありません。依頼人さんに代わって、相手とうまく交渉して、得をした額に応じてその何割かを報酬としていただくということはありません。

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