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相続は商取引よりも難しい(かもしれない)
ほとんどの契約は「口約束」で正式に成立します。しかし、あとで契約内容がわからなくなると、口約束では解明が難しいですから書面にするのが慣例です。商取引ですと取引内容のパターンがだいたい決まっていますから、まともな会社との契約ならそれほど混乱はないでしょう。(とはいえ、詐欺・詐欺まがいは多いのでお気をつけください。)
遺産分割協議は身近な人が亡くなったため精神的に不安定になっていることもあり、また多くの場合、初めての経験なので当事者は混乱しがちです。
ケースによりますが、一般商取引よりも厳密で緊迫することがあります。
相続が「争族」といわれるのは
家を買うのに専門家に印鑑証明を渡したり、車を買うのにディーラーさんに印鑑証明書を預けることはよくあることですが、相続となると自分の印鑑証明書を他の相続人に見せたり預けたりしたくないという人は結構大勢います。
相続人のAさんが△△円を相続し、Bさんは△△土地を相続するという約束をしても、たとえばAさんは△△円を受け取った後、△△土地をBさんのものにする登記に協力しないのではないかと心配する人もいます。
逆に、Bさんが△△土地をまず自分のものにして、Aさんにお金を渡さないということも心配かもしれません。
もちろんこれは訴訟をすれば解決するでしょう。しかし、訴訟は時間と費用(弁護士費用)が大変かかります。
相続人が他の相続人をだましても、おそらく大金をかけて訴訟はしないだろうと考える人がいます。訴訟を提起されたとしても、支払い命令が出てから払えばよいという態度です。
遺産総額にもよりますが、裁判に数百万円かかるとすると、相続に際して赤字にはならないとしてもかなり減ることになります。その場合、訴訟をして費用がかかっても(弁護士さんに支払っても)、そのお金が他の相続人の手に渡るよりはよいという人は多いです。
あるいは、そんなに費用がかかるならと訴訟を躊躇する人もいます。また、それを見越して、どうせ裁判にはしないだろうから、相続・遺産分割協議で嘘を言おう、約束を破ってもいいだろう、と考える人もいます。
とにかく、トラブルにまで発展させないようにしましょう。
大切なことは内容証明にする
内容証明郵便を送るときの代表的な勘違いに、「裁判になる」「ケンカになる」というのがあります。
初めから訴訟にする気なら、内容証明郵便など出していないでサッサと訴訟をすればよいのです。行政書士が作成した内容証明が届いたということは「スジを通して、お互い譲れるところは譲り、協議をして、きちんと解決しましょう」と提案するものがほとんどです。場合によりますが、少なくともそういう「考え方」「態度」です。
「さあ、内容証明が来たから、法律を使って自分に有利にしよう。」
「勝率の高い、腕のよい弁護士に依頼しよう。」
と考える人がいます。
内容証明を送って相手にプレッシャーをかけるとか、法律をうまく使って他の相続人より得をしようとするのは、どちらも本来とるべき態度ではありません。
そもそも相続とは「(親から、先祖から)引き継ぐ」ことです。損得を争うことではありません。家制度はなくなりましたが、先祖や親の財産だけでなく、伝統・習慣・考え方・先祖の心(体も先祖があるからこそもらえたものなのですが)を受け継ぐことだと思います。どうやって引き継ぐかを考えてください。
ただ、「公平」かどうかは気になります。たびたび言いますが、法律があるからといって、常に正義と善意が守られるわけではありません。公平かどうかも疑問です。
法律は自分を助けてくれることもあるし、法律があるために苦しめられることもあります。相手に誠意と常識があるかどうかによっても事情は違ってきます。法律をどう使うか、法律からどう逃げるかが重要になることがあります。
公平な相続とは
相続において、公平性はよく問題になります。特別受益や寄与分などもありますが、心理的なものもあります。「親にとって、子はみんな等しく可愛いもの。」とは必ずしも言えないようです。「非常に可愛い子」と「少しだけ可愛い子」がありそうです。職場で、可愛い部下とあまり可愛くない部下がいるのと似ているかもしれません。(えこひいきする上司と同じように、そういう親もいるでしょう。)
結婚のときに親から援助してもらったとか、自宅購入の際に親から援助してもらったとか、老後の面倒を看ていたというようなことはよく問題になりますが、裁判で決着がつくとはかぎりません。(証拠が不十分なために負けるとか、そもそも裁判にもならないことがよくあります。)
兄弟とも大学に通い、兄弟とも学費を親に出してもらった。兄は私立大学だったから学費が高く、弟は国立大学だったから学費が安かった。教育費が不公平だから、相続のときに、この学費の不均衡も考慮して相続額を決めたいという人もいます。
一方は大学を卒業したが、他方は高卒だったということもあります。大学の授業料の分だけでもかなりの額です。
この場合は、「高卒だったのは大学入試に受からなかったからで、もし受かっていれば学費は親に出してもらえたはず。」という反論もあります。
兄弟のひとりは、長い間、親と同居していたため、食費も住居費も負担していない。その費用を計算すると数百万では済まない、ということにもなります。
親と同居していた、あるいは年老いた親と別居はしていたが、頻繁に療養看護などの世話のために親の自宅へ行っていて、金銭の管理までしていたので、内緒で親の金を持ち出していたということもあります。
勝手に持ち出した人としては、『これだけ面倒を看てあげたのだから、もし親の判断力がしっかりしていれば、このくらいの「お礼」「お小遣い」はくれたはず。その相当額をその子が「自主的にいただいただけ」』という考え方かもしれません。
とにかく、各々の子に掛ける費用は同額ではありませんから、これが数百万、数千万の違いになると、相続のときに他の子(相続人)から苦情がでることは十分考えられます。亡くなった人の財産状態によるでしょうが、数百万・数千万円くらいは不明だったり、誤差の範囲だったりします。
実生活と法律
上記のようなことでよいのかというと、常識的にみて「良い」とはいえないでしょうが、遺産相続という現実問題に際してはどうなるのでしょうか。
法的に判断するとどうなるという理屈は簡単ですが、事実関係が明確にわかるのか、感情的に納得できるのかということになると全員が納得するような遺産分割は困難なことが多いです。
民法に記載されている相続の仕方と、その家族での相続の考え方はかなり違うことがあります。親子・兄弟姉妹には歴史、つまり、長い間どのように暮らして、家族関係や相続をどのように考えているかということも円満な相続の重要な要素です。
家を継ぐ・跡取り
武道では「免許皆伝」というのがあります。この流派のすべてを学んだ優秀な弟子に与えられるのかと思っていましたが、実はそうではないらしいのです。
すべての技と精神を優秀な弟子全員に教えてしまっては、「秘伝」「極意」が流出してしまい、「道場破り」などが来たときに勝てなくなるかもしれません。「秘伝」「極意」は大事な勝負のときのために隠しておきます。
本当の「秘伝」「極意」はその流派の跡取りひとりだけにしか教えないそうです。
昔は社会的地位や財産も「跡取りひとりだけ」にしか受け継がれませんでした。通常は長男が跡取りですから、次男以下は、それ相応のことはしてもらうとしても、身分を継げないなどの問題があったため、時代が新しくなるにつれ身分・地位・自分より権威あるものを憎む人たちも増えたようです。さらに、それは反社会運動・反政府運動として活発化する一因となったのではないでしょうか。
しかし、現代では受け継ぐ身分は正式にはありません。財産も長男・次男・長女・次女・・・みんな均等にもらう権利があります。
「もういくらなんでも『家』とか『跡取り』とか言う時代じゃないでしょ。」と笑う人も多いのですが、まだ「家」「跡取り」の概念が残っている人は多いです。先祖代々の墓を誰が継ぐかというようなときに、やはり問題になりますし、「メンツ」の問題としても残っています。
墓はいらない、骨は海に撒いてくれればいい、というように、昔からの習慣にはこだわらない人がいる一方、長男としてのメンツが重要だったり、結婚したくても親の名字(姓)から離れられない(から、結婚しない)という人もいます。そういう人たちの間でも、人によって考えは微妙に異なりますが、家とか先祖は(先祖あってこその自分ですから)重要だと感じている人がいなくならないのでしょう。
わが家の相続・自分の相続
初めから「法定相続のとおり」と決めてもよいのですが、それでも不公平感が払拭できない場合が多いというのは、上に書いたとおりです。
自分たちにとっての相続方法を法律よりも優先させるのが遺産分割協議の第一歩だと思います。(いくら当事者が希望しても、現在の社会で、「それをやってはいけないという規則」がありますから、これには当然従うことになります。)
親だけでなく、子(相続人)もある程度高齢となり、認知症ではないにしても判断力が不足しているとか、判断の仕方(考え方)が一般的ではない(常識と異なる)こともよくあります。簡単に言うと、「変なことを言い出す人」がいるかもしれないということです。関係者の中に最低でもひとりはいると思っていたほうがよいでしょう。
遺産分割協議がうまくいかず、法定相続どおりにしようとしても納得できないので、
「よし、裁判だ。さあ、弁護士に依頼するぞ。」
と弁護士事務所を訪れてみてもよいですが、証拠が少ないために感激するような良い結果はでないということがよくあります。
さらに、個人情報保護法というものがありますから、真相解明(遺産額・生前に相続人が受けた金額の確定)のためには大きな障害になります。子(相続人)だから、親の死亡後、親の財産を自由に調べられるというものではありません。毎年の収入と支出、税金の支払額など税務署で簡単に調べられるということもないでしょう。
個人情報保護法というのは真実をわからなくしますから、権利行使の道を閉ざされてしまう人ができてしまいます。
協議の過程を記録する
結局は、「自分たちとしてはこうしたい」という意見があれば、それが可能かどうか専門家に聞いてみるとよいでしょう。法の規定を参照しながら、当事者の主張を修正していくのもよいと思います。
主張や提案、そしてそれに対する回答は、口頭は避けてなるべくメール等ですること、ときどき「現時点での決定事項」としてきちんと書面にするとよいと思います。(メモ程度の「書面」ですと、最終的に証拠にはならないと思っていたほうが無難です。特に、パソコンで作成したものは筆跡すらもありませんから、単に「話の整理用」でしかないでしょう。)
また、「何月何日に「XXと言ったのだから、変更は許さない。」という人もよくいます。このように言うならまだよいのですが、「何月何日にXXと言ったのに、今になってそうしたくないということは、あの時言ったことは嘘だったのか。」という言い方になることもよくあります。
実際の協議というのは、話が進むうちに、状況・条件も気持ちも変わってくるのが自然なことなので、協議の途中で何度もリセットとリスタートが必要なのです。ところが、「前回言ったことと、今日言うことが違う。前々回言ったことは忘れている。もう信用できない。」ということになりがちです。
相続での内容証明の使い方
親子兄弟では遠慮がないこと、ひとこと嘘を言うだけで数百万・何千万円を得するかもない、相手も嘘を言ったのでこちらも嘘が言いやすい、相手がずるいのだからこちらもずるく行動するのは当然という気持ちになるかもしれません。
ここでの「嘘」とは、これまでの生活についての認識の違いもあるかもしれません。他人をだますのは意外とハードルが高くても、親・兄弟姉妹に嘘は言えるということはよくあります。他人に平気で嘘が言えるようでは「人の道」をはずれていますが、親・兄弟姉妹には結構平気で嘘が言えるのかもしれません。
親子・兄弟姉妹などの間で内容証明を使うなどとんでもないと考える人もいますが、相続は赤の他人との取り引きよりも厳しいことがありますから、感情的になり、話が複雑化しそうなら、口頭での安易な協議はやめましょう。内容証明郵便を使うのは良い方法です。その他、作成者のはっきりした書面でもよいですし、最低でもメールにしましょう。
筆跡鑑定という技術はありますが、通常は、当てにしないでください。大げさで費用がかかります。実際にはめったにやりません。自筆証書遺言について、本当に本人が自筆で書いたのかというようなことで訴訟で真っ向勝負するのなら筆跡鑑定をしなければならないでしょうが、筆跡鑑定をするようなことはないという前提で考えておいたほうが良いでしょう。
メモは当事者の参考資料にはなるのですが、メモも量が増えてくると次第に全体が不明確になります。ある程度区切りのよさそうなところで、きちんと書面にまとめることをお勧めします。
書面にまとめて双方で署名押印するのと、一方が内容証明を送っておくのと、どちらがよいでしょうか。「どちらが気軽か?」「どちらがカドが立たないか?」というと難しいところですが、
- 書面にまとめて双方で署名押印する方法:署名する場で、お互いの意見の言い合いになるかもしれない。
- 内容証明郵便で通知する方法:自分の理解している範囲のことを書いて、違憲の食い違うところは、あらためて協議できる。
と思います。
当事者全員で書かなくても、自分ひとりの認識していることを他の相続人に内容証明郵便で知らせておくこともできます。それを読んだ他の相続人は、「この箇所が今までの協議内容と違う。」「自分はこの箇所は納得できない。」とはっきり指摘できます。「内容証明はケンカではない」ということがおわかりいただけるでしょうか。
しかし、内容証明等の書面での「言葉遣い」には気を付けましょう。こういう書面に過敏に反応する人がいます。そもそも相手をどう呼んでいいのかも難しいです。売買契約などでは普通に使う言葉でも、兄弟姉妹などからの書面に書いてあると腹が立つこともあります。
個人の権利義務を扱う行政書士
「行政書士」というわかりにくい名称の職業ですが、彩行政書士事務所は、役所に提出する書類作成をする業務より、個人の権利義務に関わる私的な出来事(規則・法規は関係します)のお手伝い・書面作成を中心に行っています。
「もう話し合ってもだめだから、協議はやめて法律だけで勝負する」となってしまえば、弁護士事務所へ相談するしかありません。「法律で勝負だ」とならないように、予防する・協議する・示談書を作成して円満に解決したいと考えています。
記録・資料が重要
彩行政書士事務所では、相続・遺言書・慰謝料・示談などの場合、まずは「記録屋」になろうと考えています。
記録をするには資料の収集・聞き取り調査・資料や現状の調査が必要になります。
この過程で、当事者の思い違いなどがわかることもあります。
正確な記録が積み重なれば、良い判断の材料となります。良い判断材料があれば、良い結果につながりやすいといえます。
記録の作成の仕方、記録の保管の仕方、記録の提出の仕方にはノウハウが活きる場合があります。また訴訟をするとしても、資料(証拠)がなければはじまりません。
内容証明郵便は慎重に作ります。頻繁に出すものではありません。しかし、要所要所では使いましょう。川崎市中原区の彩行政書士事務所では、内容証明の回数が多くなる場合は、1通あたりの費用は低く抑えられます。
途中から訴訟に移行する場合には、弁護士事務所をご紹介します。
天国も地獄もない
相続は遺産分割協議でもめたり、損をした得をしたということがよくありますが、これは遺産分割協議だけが問題なのではありません。
かつて一緒に暮らしてきた共同相続人(親子・兄弟姉妹)やこれまで一緒に暮らすことが少なかったり、一度も一緒に暮らさなかった身近な人(法定相続人)との歴史があります。
また将来のことも気になります。
今までの人生・これからの人生と考えると、自分は損をした・苦労をしたという思いがあるでしょう。
世の中で生きていく以上、「自分は悪くないのに・・・」ということがよくあります。一生のうち、まったく不当な目に遭わないという人はいないでしょう。不運や間違いもあります。どうして自分は貧乏くじを引くのかと感じている人は多いはずです。
また「まったく自分の権利が侵害されず、嫌な思いもさせられない」という天国のような世界はないでしょう。逆に、「何をやっても悪いことばかりで、まったく良いことも楽しいこともない」という地獄もないと思います。これはある歴史家から聞いた言葉ですが、その先生のオリジナル発言かどうかはわかりません。「天国もなければ地獄もない」と考えておくと、冷静・平静を保つのに役立ちそうです。(といっても、悔しい気持ちは簡単に消えませんね。)
当事者が次のような考えの場合、最終的にどういう結果になるのかやってみなければわかりません。
- 自分の主張がすべて正しい。
- 今までの生活で、自分が損をしてきたから今後は一歩も引かない。
- 相手が嘘をいうのだから、自分も不正をしてよい。
最終的には訴訟で解決するのでしょう。訴訟はたいてい、お互いに不満足のことが多いと思います。裁判は「一刀両断」といわれます。お互いに傷つくことが多いのではないでしょうか。
まずは内容証明を発送してみて、相手の意見をきちんと確かめてみてはいかがでしょうか。どうせお互いに100パーセント満足できないとなれば、多少は譲り合う気持ちも生まれるかもしれません。
どのように展開するかわからないから、まずは専門家に相談というのもよいと思います。専門家は第三者ですから冷静に話が聞けます。また客観的に書面が作成できます。法的な面も考慮します。
相続開始後、専門家に手続きを丸投げしてしまう方法もあります。丸投げと言っても、お話をうかがって案を提示しますので、それでよいとかよくないとか意見を言ってください。こうすると相続人同士のトラブルを防止できる可能性が高くなります。
とはいえ、すべての手続きを代行すると複雑になったり、時間がかかったり、費用がかさんだりしますから、ご自分で役所からの書類を集める、銀行へは自分で行くなど協力していただけると最もスムーズです。
面談は武蔵小杉駅・元住吉駅のそばですが、郵便・電子メール等を使いながら全国対応できる業務もたくさんあります。
完全予約制なので、メール・電話で(私の携帯電話のほうに)ご連絡ください。