Aさんが死亡しました。
Aさんの妻は既に他界して、子供が3人(B・C・D)がいます。
法定相続人は、B・C・Dです。
AはDを非常に可愛がり、B・Cとは気が合いませんでした。Dを「えこひいき」していた感じです。
その結果、B・Cは仲が良く、Dは孤立しがちでした。
Aの相続開始後、全財産をDに相続させると書いてあるAの遺言書がありました。
遺産分割協議の中で、Dは
「3人とも同じように相続すべきであり、自分だけが全財産を受けるのはおかしい。こういう内容のものは無視しよう。」
と言って、みんなの前で遺言書を破り捨てました。
それを見たBは、
「民法には相続人の欠格事由が定められていて、相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者は相続欠格とされ、相続人となることができない。Dが今、Aの遺言書を破棄したことは明白だから、Dは相続人とならず、Aの財産はB・Cがふたりだけで分ける。」
と言います。
Bのいう民法の規定とは、891条5号のことです。
Dは全財産どころか、法定相続分ももらえなくなってしまうでしょうか。
相続欠格
まず、遺産分割協議で当事者が、891条5号が規定されている理由と、Dの目的が合致しないように「感じる」ことが大切かと思います。
相続人としての資格を失う「相続欠格」にあてはまるには、遺言書について故意に変造等をおこなうことと、その行為によって自らが相続法上有利になろうとする意思がセットにならなければならないとしているような判決もあります。
つまりDが今回の相続に関して不当な利益を目的としていなかったときは、相続欠格者には該当しないと解されることもあるわけです。
提案と協議
ただし、上の例のDのような行為はしない方がいいです。Dとしては、自分だけ得をする気はない、すべての兄弟姉妹が同じように遺産を受けるべきで、また3人で仲良くしていきたいと考えたのでしょうが、破り捨てたりしなくてもDの思いを実現することは可能だったと思います。
遺産分割協議の時には、法的に争うことはなくても、昔の兄弟喧嘩を思い出したりして感情的になることもよくあります。頻繁に感情的になりそうなら書面(メールでも結構です)のやり取りを中心に協議することをお勧めします。
公正証書など
ところで、不当な利益を目的として、遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿する者がいるのかということですが、結構あるようです。ただし、自筆証書遺言の場合でしょう。
急いで遺言書を作成しなければならないとか、非常に簡潔な文の場合に、自筆奉書遺言で十分だと思われるかもしれませんが、やはり公正証書などで慎重に作成した方がよいでしょう。
心の声
法律の知識があり、Dの行動からすぐに民法891条の内容に思い至ったBにも問題がありそうですが、もっと心配なのはDがBの指摘を受けて、「たしかに自分の行為で、自分が相続分をまったくもらえなくなったのはやむを得ない。」と判断してしまうことです。Dが非常に真面目で規則等を守る人であれば、そういうこともあるかもしれません。
上に、「感じる」ことが大切と書きましたが、心の声・自然の声に耳を傾け、本来どうあるべきかを素直に感じることは結構むずかしいことかもしれません。
心の声がいつも正しいとはかぎりませんし、心の声のとおりの結果にはならないこともありますが、まずは自分の考え・思いを提示してみてはいかがでしょうか。
場合によっては内容証明郵便でしっかりと事実関係等を記録し、通常は書面(メール)のやりとりで、協議の経過がわかるようにし、結果的に当事者全員の考えを反映した遺産分割協議書作成を目指すのが一番スムーズで円満な結果になると思います。