相続トラブルをなくすために遺言書を作成しておこうということが言われます。しかし、遺言書があっても円満に相続が完了するとはかぎりません。
どなたかが亡くなって遺言書が見つかると、都合の悪くなる(相続の条件が不利になる)人がいる可能性があります。その人からみると、その遺言書が無効であるとよいわけです。
遺言書があっても
遺言書で相続について指示がしてあると、訴訟の判決のように、有無を言わせずに決まるわけですから不満が残ることは多いと思います。
遺言書が無効かどうかは最終的には裁判所の判断となりますが、一般的にどういう場合に無効かというと以下のようなものが考えられます。
- 自筆証書遺言なのに自書していない
- 偽造である
- 有効な日付がない
- 押印がない
- 夫婦が共同で作成している
- 内容が公序良俗に反している
- 遺言作成時に遺言作成能力がなかった
- 詐欺・錯誤・強迫によって書かされた
- 内容が不明確
自書
自書というのは自筆という意味ですが、自書かどうかわかりにくいことがよくあります。元気なときの文字と体力・気力の衰えたときの文字は結構異なります。それでも特徴があるとは思いますが、絶対に本人の自書であると断言できるのかどうかわかりません。特徴があればこそ遺言書の偽造もしやすいということになるでしょうか。たとえ偽造であったとしても本人のものではないと断定するのは難しいでしょう。
一目で他人の筆跡だと思われるような遺言書を見たことがありますが、訴訟をしてでも決着を付けることまでしないという人もおられます。(遺言書の偽造をなんとかしたいという問題は弁護士事務所にご相談ください。)
公序良俗
公序良俗に反しているという例でよくあげられるのは、愛人に遺産をあげるというものですが、そのような遺言書を私は見たことがありません。おそらく、遺言書であげずに生前にあげておくことができるからではないでしょうか。
遺言能力
遺言能力とは、非常に簡略にいうと「遺言の内容を理解し、遺言の結果を理解・予測などできるような判断力」です。正確な定義は法律書等をご参照ください。
遺言作成時に遺言能力がなかったことを証明するのも非常に困難だろうと思います。通っていた老人施設とかヘルパーさんなどに聞き取り調査をして事実が判明するのかどうか。いずれにしてもかなり大変だろうと思います。
詐欺強迫
詐欺・錯誤によって、つまりだまされて書いたかどうかも証明するのは困難だと思います。強迫も、無理やり書かされたことを証明できるでしょうか。頼みこまれて書く遺言書はありそうです。
しつこく頼まれて仕方なく書いたり、懇願されて可哀想になって書くこともあるかもしれませんが、これは普通に考えると有効な遺言書でしょう。
内容が不明確
内容が不明確というのは、例えば、「何を」「誰に」「どういう場合に」あげるのかなどがわからない場合です。
しかし、たとえば川崎市・横浜市・世田谷区に土地を持っていて、どの土地をあげるのかわからないというような遺言書は見たことがありません。子供が何人かいるうちの誰にあげるのかがわからないという遺言書も見たことがありません。しかし、どういう場合にあげるのかがわからない遺言書は何度か見たことがあります。
預貯金
「死亡時に有していた預貯金等の何分の一」と書いてあるのに、何銀行のどこ支店に口座があるのかわからないので、全体・総額でいくらなのかわからないということはあり得ます。また、たぶん全部わかっているけれども、もしかしたら他にも口座があるのかもしれないというケースは多いです。しっかりした財産目録があるとよいと思います。
遺言書と財産目録
遺産分割協議で紛糾しそうだから遺言書を遺すとよいということはよくいわれますが、それ以外に相続のときに役に立つのは、上に紹介したように、財産目録でしょう。遺言書に全財産が記録されているとはかぎりませんから、内容さえしっかりしていれば必ずしも遺言書である必要はなくメモでもよいのです。
財産目録としてのメモ
メモ書きでは財産目録とはいえないかもしれませんが、要するに全財産を記録したもののことです。メモ書きだとすると、役所などに提出するものではありませんから、目録の作り方とか書式を気にする必要はありません。
- 土地の住所
- 建物の住所
- 銀行名・支店名・口座番号
- 財産を記録した契約書の所在など
財産の内容を特定できれば結構です。
メモの信頼性
自筆証書遺言ならいつでも自分ひとりで書けますが、形式を間違えたりすると遺言書としては機能しません。しかしメモとしての役には立つ可能性があります。財産の内容を相続人に知らせるだけならメモ書きで充分です。
正式な遺言書ではなくメモでもよいのですが、作成の日や確認した日付をなるべく最新のものにしておくとか、関連事項も記載しておくなど、内容の信頼性を高める工夫をしておくとよいでしょう。そうすると遺言能力があったことや、認知症などではなかったことの裏付けにもなるかもしれません。
遺言書の内容
財産のすべてを遺言書には書く必要がない場合もあります。遺言書の内容によって財産についての記載は異なります。
メモ書きのような財産目録・財産の記録があれば役に立つとはかきましたが、遺言書の内容と整合性があるようにする必要はあります。
遺言書がない場合も財産目録のように、財産を記録したものだけでもあれば相続手続きがしやすいことが多いです。