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相続分が少なすぎる
遺留分についての記載は他と重複しますので、ここでは簡潔に書きます。法定相続人は被相続人から遺言書で相続分がないとされても、原則として一定割合の遺産を相続できます。遺留分についての解説は【遺留分】をご参照ください。
相続放棄
「相続放棄」と「相続分の放棄」は別のものです。
相続の開始前(どなたかが亡くなる前)に、推定相続人(もし今、相続が開始したら法定相続人になる人)は相続放棄をすることはできません。裁判所に申述(届け出)をしても認められません。トラブルの元だからでしょう。法律は、たいてい「トラブルが予想されるから」条文に定めたわけではなく、実際に起ったトラブルを元にして規定してあるようですので、
「相続を放棄するなら、今、△△をあげよう。」
といわれて放棄して、実際には△△をもらえなかったり、△△をもらっても足りないほど損をした事例があったものと思われます。実際に、正当な相続分がもらえなかったという例はかなりあります。
また、ここで「相続を放棄するなら、・・・」というのは、相続放棄なのか相続分の放棄なのか当事者が勘違いしているかもしれません。
遺留分の放棄は生前でも可能
生前に相続放棄することは、たとえ裁判所を通しても認められませんが、遺留分の放棄はすることができます。遺留分とは、亡くなった人の遺言書で「誰々には、私の遺産をまったくあげない。」と記載してあっても、相続欠格や廃除のような特段の事情のない限り、最低限保証される相続財産です。
遺留分の放棄は、「今、△△をあげるから、相続開始後、遺産は兄弟姉妹に全部あげること」という契約のような印象があるせいか、「契約書」にしておけばよいと考える人もおられるようです。死因贈与契約のような契約もあるのですから、遺産についての約束として、遺留分を請求しないという契約が成り立つような印象があるかもしれません。口約束でも契約は契約ですが、遺留分の放棄は口約束はもちろん、契約書・念書の書面にして署名・実印の押印・印鑑証明書を付けるなどしても無効です。なお、死因贈与契約も問題を引き起こすかもしれません。
裁判所の判断基準
遺留分の放棄は裁判所でする手続きです。そう聞いただけで、「絶対にやめよう」と思う人が大勢おられます。しかし、実際は家族・親族・子孫のために、どうしても利用しなければならないこともあります。
裁判所の窓口の係の人などはとても親切に説明してくれると思いますので、必要なときには心配せずに利用なさるとよいでしょう。また、料金も普通の人が想像するよりもはるかに安いです。裁判にかかる費用で高いのは弁護士費用なのですが、遺留分の放棄をするのに裁判も不要ですし、弁護士に依頼する必要もありません。安いです。
家庭裁判所は、以下のような点を踏まえて遺留分の放棄を認めるようです。あくまでも裁判所が個別に判断することですから、一応の目安といわれています。私が明言できることではありません。
- 放棄が本人の自由意志にもとづくものであること。
- 放棄の理由に合理性と必要性があること。
- 総合的に見て損をしていないこと。(特別受益があるとか、放棄する代わりの現金や不動産などを既にもらったなど。)
契約はあてになるのか
口約束や一般常識ではあてにならないから、契約書を交わしたりするわけです。しかし、
「遺留分の放棄をすれば、あとで△△をあげる」
という契約をしても必ずしも十分ではありません。契約というのは、「不履行」の可能性があるからです。現金を2年後にあげる、という契約をしても、お金がいつまで手元にあるかは保証できません。不動産でしたら、ある程度の方法はあります。
相続開始後の遺留分の放棄
遺留分は相続人が必ずもらわなければならないものではありません。遺言書で特定の相続人に遺産をあげないとか、相続させるとしても非常に少なくて遺留分を侵害している場合もあります。それで不満がないなら、遺留分減殺請求(遺留分減殺請求は令和元年7月1日から遺留分侵害額請求となりました)をしなければよいのです。遺留分をもらわないことが、相続人等にとって最善となる遺産分割である場合もあります。それなら遺留分の放棄の手続きではなく、遺産分割協議書をきちんと作成しましょう。
遺留分の放棄と遺言書
遺留分が放棄されれば、その分が放棄者のところに行かないというだけなので、その遺留分の帰属先を被相続人が決定しておかなければ、わざわざ遺留分の放棄をさせた意味がないことがあります。
遺留分を放棄させる場合には、代わりに何かをあげて、その遺留分を他に活用したいというケースがほとんどです。きちんと遺言書で指定しておきましょう。そうでないと、法定相続分通りに分けるか、遺産分割協議で分けることになるだけです。
遺留分の放棄はかなり複雑
遺留分の放棄は不可思議な制度ではなく、実はたいへん役に立つ制度なのです。しかし、背景も、手続きも複雑な場合が多いので、専門家とよく相談なさった方がよいと思います。
「遺留分の放棄」・「遺留分の侵害」が問題になるのは、公平性や合理性を考慮していない場合でしょう。
「遺留分の放棄」を取りやめる
遺留分の放棄は、生前なら家庭裁判所の許可が必要で、家庭裁判所は遺留分の放棄によって大きな不公平や損失がないかどうかを検討して許可するそうです。
ですから、裁判所が許可するにあたって考慮した状況や条件が、相続開始前に変化したなら「遺留分放棄はやっぱり許可しない」という変更がなされる可能性はあるでしょう。
相続開始後に遺留分放棄をする書面を作成したなら、裁判所の許可は必要ありませんから、相続人本人がする法律行為です。法律行為である以上、無効だったり取消し可能であることは考えられます。
無効・取消し・撤回・解除
「遺留分放棄の取消し・撤回は可能か、それとも無効か」という場合、どうしても言葉の意味を説明しなくてはなりません。以下、かなり大雑把ですが説明します。
- 無効: 初めから法的に成立していない。
- 取消し: 一旦は法的に成立したが、その成立過程に問題があるので、「初めからそのような行為がなかった」ことにできる。
- 撤回: これから先のことに関して、取下げて、やめる。
- 解除: 一定の事由があれば、契約を取りやめて、契約前の状態に戻す義務が生じる。
書面は、未成年など一定の人を除いて、自分で作成できますが、用語や文章の組み立てを間違えると、本人が意図していたこととは違う権利義務が発生してしまうかもしれません。専門家に相談することをお勧めします。
遺留分の放棄をとりやめたら
ひとたび遺留分の放棄をしたとなれば、他の相続人などは、その放棄を前提として財産関係の手続きを始めた可能性があります。
相続開始後に遺留分放棄をして、さらにその後、「やっぱり遺留分放棄はしません」ということになると、人に迷惑がかかることがありますので、無効や取消し原因があるなら別ですが、自分勝手に遺留分の放棄は認められないと考えておいた方が無難でしょう。