胎児と権利能力
人は生きて生まれれば、権利や義務の主体となることができます。「権利能力を有する」といいます。ですから生きて生まれなければ権利能力はないというのが基本的な考え方です。
胎児の相続・遺贈
では母親のお腹の中にいる間はどうなのかというと、胎児はまだ生まれていませんから相続できないはずです。しかし、たいていの場合、数か月で生きて生まれてきます。A子さんにすでに1歳の子がいて、もう少しで次の子が生まれる状況で、たとえばA子さんの夫(つまり、子供の父親)が死亡し、A子さんと1歳の子に相続が開始すると、今、お腹の中にいる胎児は生まれるのが数か月あるいは数日遅かったせいで相続できないことになってしまいます。そこで、胎児は「生きて生まれることを条件に、先に生まれた1歳の子と同様に相続権が認められることになっています。
同様の考え方で、「今は胎児だけれども、生まれてきたら△△を譲る」という遺言書を作成すれば有効です。
胎児と離婚
まだ胎児のうちに親が離婚することもあります。離婚の場合、親権者と養育費取り決めが重要です。この場合、親権者は母親だと思いますが、養育費の取り決めもしておくでしょう。
胎児が生きて生まれなければ役に立たない取り決めですが、まだ生まれていない子が成人する(くらい)までの費用ですから、かなり高額・長期間です。そのため強制執行可能な(強制執行認諾文言付きの)公正証書を作成しておく人がほとんどです。
胎児を代理
しかし母親が遺産分割協議等で胎児を代理して、「生まれてくる子に財産をあげる必要はありません」というような法律行為はできません。事情はどうあれ、子の不利益になる(可能性のある)ようなことを勝手にしてはいけないのです。
「生まれてくる子に財産をあげなくてよいから、その代わり、債務も負わせない」というなら納得できる気がしますが、詳細な事情がわからないので、法的にはできないことになっています。