いろいろな人に叱られそうなタイトルをつけてしまいました。
手や足が痛いときなど整形外科で診察してもらうことがあるでしょう。そこで診てくれる医師は有資格者ですが、どの医師に診てもらっても必ず同じというわけにはいきません。
ところが、相続手続きをしてもらう場合、
どの
行政書士に
依頼しても
同じ!
というのが基本です。
たとえば、夫妻と長男長女という家族構成で夫が死亡したとします。
法定相続人は3名ですが、妻がひとりですべてを相続するとします。
長男も長女もこの相続内容に同意しています。
3名とも成人しており、全員に認知症などの問題はありません。
3名ともお互いにすぐに連絡がつきます。
このような状況で相続手続きを依頼されることはかなり多いです。
- 相続手続きは相続人全員が関与するものだということはご承知ください。
- 専門家に依頼せずに、相続人さん自身で手続きをすることもできます。
上のような事情で専門家が手続きを引き受けるとすると、誰がやっても同じはずなのです。
誰がやっても同じとなれば、いくつかの事務所に相続手続きの見積もりを出してもらって一番低額の事務所に頼めばよいと思うでしょう。
それはそのとおりで、もし私が顧客の立場だとしても同じように考えます。パソコンを買うのに、同じ製品が10万円で売っているショップと9万5000円で売っているところがあれば9万5000円で買いますから。
誰に依頼すべきか不安
そもそも相続手続きは人生でそう何度も経験するものではありません。今回が初めてという人も多いでしょう。
- いくらかかるんだろうなぁ
- ボッタくられないかなぁ
と心配かもしれません。お気持ちはよくわかります。
だから友人知人に相談すると、
「いろいろな行政書士事務所に問い合せて、見積りを出してもらって比較するといいよ。」
というアドバイスもよくあるようです。
そこで、いくつもの行政書士事務所に電話をして、「預貯金と土地・建物を相続する手続きはおいくらですか?」とか「遺産分割協議書を作ってもらうといくらかかりますか?」と問い合わせることになります。
総額はわかりません
上のAさんのお宅の例はかなりシンプルなケースですが、最終的な費用(相続手続き時の総額)を尋ねられたりすると困るのです。
なぜかというと、
最終的な
必要経費が
いくらなのか
誰にも
わからない
からです。
基本料金はお知らせしますが、基本料金の他に必要書類を集めたりするので費用がかかります。
どのくらい事務費用や必要経費が発生するのかを前もって知ることはできないのです。
相続手続きでは、まず亡くなった人の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を取り寄せます。どこの市町村に何通あるのか、あらかじめ知ることはできません。この数によっては最終的に費用が数万円上昇していることもあります。(令和5年3月現在。)
不動産登記事項の証明書、固定資産の評価証明書なども必要です。不動産登記と同時に預貯金も相続するのであれば預貯金の証明書とか株についての証明書なども必要です。不動産の数によって費用は違ってきます。
もしお子さんのひとりが未成年だったりすると本人が自身だけで相続手続きに参加できませんから裁判所に代理人を決めてもらう手続きがあります。
法定相続人の誰かが住所氏名を自分で書けないとか、意思表示が正しくできないような状態だったりする場合は医師の診断書が必要になることもあります。結構費用はかかります。
このように自身だけで相続手続きに参加できない人がいる場合の手続きは複雑になります。
相続人さんたちの間で意見が合わないとか、相続人さんと連絡が取れないというような事情があると、連絡通信費が余計にかかります。場合によっては出張の必要があるかもしれません。コストは上昇します。
定額料金も
上に解説した計算の仕方は、航空運賃に例えると LLC と似ている点があります。必要最小限のものに、追加料金をプラスしていくイメージです。
LLC の場合、ブランケットを借りたらいくら、ワイン一杯がいくら、おにぎり1個いくらと料金が発生するようです。
飛行機で旅行するなら昔ながらの航空会社(フルサービスキャリア)でビジネスクラスとかファーストクラスもあります。ここではブランケットを借りても、食事とは別に飲食しても追加料金などが発生することはほとんどないでしょう。
相続手続きでもビジネスクラスとかファーストクラスのようなものがあって、いちいち事務費用とか手数料を加算することなく、
- 「遺産がいくらからいくらまでなら50万円。」
- 「遺産総額の何パーセントが報酬」
のように初めから決まっていて、こまかな追加をしない方法もあります。
相続手続きを LLC 方式(?)で行う場合、必要な書類が全部でいくつあるのかをあらかじめ知ることはできないのですから、電話で相続手続きの総額の見積もりをもらって比較することが難しいことはおわかりいただけると思います。
昔のお寿司屋さん
私の父は会社を経営していました。父は顧客を飲食とか旅行とかに接待していました。私は小学生の頃から接待の話などはときどき耳にしていました。
接待でお寿司屋さんのカウンターに座って食べたいものを注文していると、通常の料金の何倍にもなることはよくあるのでした。
(今でもボッタクリバーというのはあるようですが、それとは性質が違います。)
接待ではないのですが、テレビ局の番組企画で、数人がグループに分かれて、同じ寿司屋さんのカウンターで食事をして料金を比べるというのがありました。
あらかじめ注文する寿司の種類と数は打ち合わせしてあります。
結局、同じものを食べてもグループによって料金は異なるのでした。
少々の値段のことは気にしないことにしようという文化なのでしょう。これが「粋」なのかもしれません。
本当は全国一律にしてほしい
料金の自由化で、報酬額は各事務所で設定しなければならないことになりました。事務手数料も各事務所で決めますから、事務所によって違いがあります。
そのせいで多くの市民が昔のお寿司屋さんの料金を連想して、疑心暗鬼、不安でいっぱいなのです。
依頼する側も、依頼される側も戸惑っています。
料金が一律ではだめなのかというと、そんなことはないと思います。
公正証書などを作成してくれる公証役場の料金は全国一律ですが、特に困ることにはなっていないと思います。依頼するときには正確な金額はわからず、終了時に(実際は、ある程度の段階で)明らかになります。
公証役場は「お役所」だから信頼できるのかもしれません。行政書士とか司法書士とか弁護士とか税理士などは、公務員ではないから必ずしも信頼できないということなら、なおさら料金は全国一律にした方が安心でしょう。
どの事務所に依頼しようか、ボッタくられるのではないか、もっと安い事務所はないかと、右往左往する人がおられますので、何とかならないものかと思います。
膝とか腰とかの手術をしてもらうのに、どの病院を選んだらよいのかと心配したり評判を調べたりするでしょう。保険診療であれば、診療処置についての料金は全国一律なのですが、不必要な検査などをする病院はあるそうです。でもたいていは「病院によって費用が異なるかもしれない」と心配するのではなく、「技術とケアの良い病院はどこだろう」と心配をします。
相続手続きの場合は、「手続き方法やサービス」の心配をするのではなく、「同じことをしても事務所によって費用が異なるかもしれない」という心配です。手術の場合とは逆の心配です。
やる人によって異なる相続
さて、誰がやっても同じ相続手続きのことは上に書きましたが、遺産分割協議の場で相続分について不満や要望があって相続人同士での合意が難航することがあります。
相続は被相続人さんが亡くなる前の「家族の歴史」を引きずっていることがあります。親子や兄弟姉妹には長い人間関係があるからです。これが遺産の分け方などでなかなか合意できない原因になっていることもあります。
そういう場合には意見調整等が必要になります。
行政書士が相続人さんを説教したり、強引な説得などしてその場を仕切って手続きを進めるわけにはいきませんが、遺産分割協議のお膳立てをしたり、どのように解決している人が多いか、他の遺産分配方法などの提案等をすることはよくあります。こうなると相続手続きは誰がやっても同じではありません。
また、「彩行政書士事務所に任せれば何でもうまくいく」というわけでもありません。行政書士の手腕がどうであっても、決して合意に至らない相続人さんもおられます。
はじめからそのような心配があれば、遺言書を作成しておくこともお考えください。ただ、遺言書があれば円満解決するとはかぎりません。相続人全員が100パーセント満足するのは不可能(特に収益のあがる不動産がある場合)だから、
「親の権限で、このくらいが公平なのだだと決めてしまおう」
ということも多いです。「完璧を目指さない」という考え方は大切だと思います。
そのような相続手続きの場合には、誰がやっても同じということはありません。
「えっ、だれがやっても同じだって、上に書いたじゃないですか」
ということになりますが、シンプルなケースとそうでないケースがあって、事情によるのです。
結局最後は「あぁ、やっぱり」という内容で記事を締めくくることとなってしまいました。
蛇足ですが
LLC の航空券を購入するとき、料金の支払いにたいてい手数料がかかるのには驚きました。往復運賃を一括で支払うのに、往路分と復路分に分けて、それぞれ別途手数料がかかります。それぞれが600円ほどなので、1200円ほど上積みされるようです。(令和5年3月現在。)金融機関への支払手数料は金融機関に支払うものですから、これとは違います。
おそらく必要に迫られてやっているのでしょうが、もう少し何とかならないものでしょうか。