相続分割合の指定が1人だけ

死亡して相続が開始すると、相続人の特定をして、相続人が遺産分割協議をすることが考えられますが、その前に、遺言書があればまず遺言書に従う方向で手続きをします。

遺言書の中心となる事項

遺言書で最も重要なのは、遺産の相続分割合の指定でしょう。

遺産のうちの何を誰が相続するとか、誰が遺産の何割を相続するということですが、法定相続人全員について指定しなければならないとすると、困ることがあります。

たとえば、先妻の子(前婚の子)とは生後間もなく離婚したので、離婚後の交流(面会交流など)がなく、葬式にも呼ばれなかったような子がいることがあります。その場合も自分の(被相続人の)子なので、法定相続人なのですが、何十年も一度も会わなかったので遺言書に書いていないことがあるかもしれません。

あるいはまた、生後間もなく養子(普通養子)に出した子がいると、その子は法定相続人ですが、法定相続人なのだと知らなかったということもあるかもしれません。

 

遺言書で、相続分割合の指定を法定相続人全員についてしなければ無効になるということはありません。法定相続人全員について相続分割合の指定をしなければならないということもありません。

しかし、全員の相続分割合を指定した方が無難です。今、自分が死亡したら誰が法定相続人なのかは生まれてからの戸籍謄本を集めてみればわかります。亡くなる前は推定相続人といいます。

一部の相続人についてだけ相続分割合の指定がされている(全員の相続分が記載されていない)遺言書があれば、以下のことに気をつけてください。

 

 

配偶者がすでに死亡していて、数人の子がいる場合

配偶者がいませんので、法定相続人は子供だけです。A太郎・B子・C子の3名だとすると、

  • A太郎 3分の1
  • B子  3分の1
  • C子  3分の1

が法定相続分ですが、遺言書で

・「C子の相続分は2分の1とする。」

と書いてあると、まず、C子が2分の1を相続するのですから、残りの2分の1をA太郎とB子が均等に分けます。

  • A太郎 4分の1
  • B子  4分の1
  • C子  2分の1 (4分の2)

となります。もちろんA太郎とB子は、遺産分割協議でC子の相続分である2分の1を除いた残余の2分の1を自由な割合で分ければよいのです。(C子の相続分も変えることができますが、それはこのページでは触れないことにします。)

以上のことを踏まえて、遺産分割協議をしてをしていただければよいと思います。

下の例でも、原則として同じ考え方です。

配偶者と、数人の子がいる場合 【例1】

上の例と異なるのは、配偶者がいることです。配偶者・A太郎・B子・C子の3名の子供たちが法定相続人であるとします。そして、まず遺言書がない場合の法定相続分を確認しましょう。

  • 配偶者 2分の1 (6分の3)
  • A太郎 6分の1
  • B子  6分の1
  • C子  6分の1

ということになります。

 

しかし、遺言書があって、

・「C子の相続分は4分の1とする。」

と書いてあると

相続分割合を指定されたC子の4分の1を先に決定し、その残余について

  • 配偶者2分の1、
  • A太郎とB子で均等に分ける。

ことになり、

  • 配偶者 8分の3  (16分の6)
  • A太郎 16分の3
  • B子  16分の3
  • C子  4分の1  (16分の4)

となります。

これは、C子の相続分割合が4分の1と指定されたので、遺産全体からまずC子の「4分の1」を先に分けておき、残余について法定相続分にしたがって配分したものです。

配偶者と、数人の子がいる場合 【例2】

上の【例1】と同様、遺言書に

「C子の相続分は4分の1とする。」

と書いてあるとします。

  • 配偶者は常に相続人で、法定相続分は2分の1。
  • 相続分割合を指定されたC子 4分の1。
  • その残りをA太郎とB子で均等に分ける。

ことになりますが、配偶者の相続分は全体の2分の1と決めたうえで、その残余についてC子が4分の1を相続し、さらにその残余をA太郎とB子に等しく配分します。

  • 配偶者 2分の1 (8分の4)
  • A太郎 8分の1
  • B子  8分の1
  • C子  4分の1 (8分の2)

となります。

 

 

【例1】と【例2】の違い

配偶者の相続分をどう考えるかによって相続分が異なってきますが、どちらの考えも間違いではないようです。

そもそもこのような内容の遺言書を作るべきではありませんでした。専門家に依頼した場合、このような遺言書を作成することはないと思います。

しかし、相続開始後、このような遺言書が見つかったら専門家の意見を聞いたうえで遺産分割協議をするとよいでしょう。相続人全員の意見を聞かなければならないので、専門家に任せきりにはできません。

上のすべての例で、C子さんの相続分だけが書かれていて、他の相続人の相続分の記載がないので、いずれにしても遺産分割協議書を作成しなければなりません。

川崎市中原区の行政書士

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