受遺者の意思

タイトルからは話題がわかりにくいと思います。

相続人でない人が、不動産をもらえるという遺言書があるのに、もらわないうちに死亡してしまったという話です。

 

2つご紹介しますが、どちらも重要な登場人物は4名です。

   遺言者・A と Aの相続人・B

   相続人ではない人・甲 と 甲の相続人・乙

もらうという返事をする前に死亡

Aさんは「川崎市内に所有している自分の土地を甲さんに譲る」という自筆証書遺言(自筆遺言)を作成し、その半年後に他界しました。

Aさんからみて甲さんは法定相続人ではなく、これは相続ではなく遺贈です。

役に立たない土地もありますから、もらうと損をするかもしれません。甲さんは、その土地をもらってもいいし、断ることもできます。

ところが甲さんは、もらうかどうかの意思表示をする前に突然の事故で亡くなりました。

 

この土地は結構価値が高いものでした。

Aさんは甲さんに譲るという自筆証書遺言を書いたのに、甲さんはもらうかもらわないか決める前に亡くなってしまいましたが、その土地はどうなるのでしょうか。

Aさん(遺言をした人)の法定相続人は息子のBさんだけです。

甲さんの法定相続人は息子の乙さんだけです。

特殊な事情があれば別ですが、上の説明を読むかぎりでは、乙さんが「もらう」と意思表示をすれば乙さんのものになります。

甲さんがするはずだった「もらう・もらわない」の返事を、甲さんの相続人である乙さんがすればよいので、乙さんがもらうことができるでしょう。

 

次の例と紛らわしいのでご注意ください。

店を継ぐ前に死亡

Aさんは、小さなお店を経営しています。しかし高齢となっている上、深刻な病気にかかっています。

ひとり息子のBさんは、会社勤めをしているので、その店を継ぐことはできず、「もう店を畳んで、治療に専念して、お父さんはゆっくり過ごした方がいい」と言います。

しかし、長年ずっと一緒に仕事をしてきてくれた従業員もいるし、まだ若い従業員も数人いますから、やはり廃業するわけにはいかないと考えました。

そこで、仕事でも優秀で、人柄の良い甲さんに店を継いでもらいたいと考え、次のような自筆証書遺言を作成しました。

「甲さんが私の経営する店を継いでくれれば、店の建物と土地を譲ります。どうか店を続けて、従業員の生活が成り立つように取り計らってください」

それからしばらくしてAさんは他界しました。

ところが甲さんも、Aさんの店を継ぐ時間はなく、突然の事故で亡くなってしまいました。

Aさんが亡くなったので相続が法的に開始します。Aさんには、店舗と土地、その他に自宅や預貯金もあります。

Aさんの相続人はBさんだけです。

店の従業員たちは、Bさんが店の所有権を相続して、廃業したのでは自分たちの職場がなくなるので困っていました。

 

しかし、甲さんには乙さんという息子がいます。

甲さんは店を継げば店舗も土地も譲ってもらえるはずだったのに、返事をする前に亡くなったのだから、乙さんが甲さんを相続して、代わりに遺言内容を承諾すれば、店を譲ってもらって経営を続けられると考える従業員もいます。

実際にはどうでしょうか。

Aさんの遺言は、甲さんによってのみ実現可能な条件が付いています。この条件が成就することなく甲さんが死亡してしまったので、遺言に書かれている条件が不成就であると確定してしまいました。したがってAさんが甲さんに店舗と土地を遺贈するという遺言内容は無効となりました。

つまり、乙さんは何もすることができません。今後どうなるかはBさん次第となります。