遺言書がなければ被相続人(亡くなった人)の財産は、戸籍を調査し法定相続人を特定して、法定相続人全員による遺産分割協議で決めます。相続できるのは相続人だけです。相続人には「配偶者相続人」と「血族相続人」がいます。相続人でない人に「相続」のような法的効果を生じさせたければ、遺言書によって遺贈する方法があります。
遺贈
遺言書によって相続人以外の人に自分の遺産を与えるのが遺贈ですから、遺贈がどういうものかは遺言書作成のときに重要なことですが、遺言書で特定遺贈・包括遺贈されている人にとっても知っていないと相続開始後に困ることになるかもしれません。
特定遺贈では、受遺者に与えるもの(財産的利益)を指定します。それに対して、包括遺贈(割合的包括遺贈・全部包括遺贈)があります。
割合的包括遺贈
包括遺贈とは、相続財産の全部または一部を「割合」で示して受遺者に譲るものです。
「自分の相続財産の3分の1を△△に譲る。」(注:△△は法定相続人ではありません。)
というようなものです。これは「割合的包括遺贈」といいます。
この例では、3分の1は法定相続人でない△△がもらうことができますが、残りの3分の2は法定相続人が相続するでしょう。
全部包括遺贈
また「全部包括遺贈」もあります。
「自分の財産の全部を△△に相続させる。」
というような例です。
ここで注意するのは、特定遺贈と違って、包括遺贈ですと、被相続人の遺産をすべてもらうわけですから、プラスの財産もマイナスの財産も承継するということです。
包括受遺者と法定相続人は似ている
相続人でない人に「相続させる」と遺言しても、「遺贈」のことであろうと解釈してもらえると思いますが、なるべくきちんと作成しましょう。上の「自分の財産の全部を△△に相続させる。」という書き方は望ましくありません。
割合的包括遺贈ですと、受遺者は法定相続人とよく似ていて、遺産分割協議にも参加します。そのもらう割合に応じて義務・債務ももらいます。
この債務の割合は、被相続人の権利義務を承継する人たちの中で決めればよいのですが、それ以外の人(第三者や債権者)には内部事情(遺産を受けた人たちの内輪の事情)がわからないので、2分の1とか3分の1の割合で請求されても仕方がありません。債権者が遺産分割についての内部事情を知っていて、そのとおりに請求してくれるのならそれで問題ありません。
全部包括遺贈であれば、義務・債務、要するに負債(借金等)も全部もらうことになります。
包括受遺者と相続人の違い
包括受遺者と相続人はよく似ているのですが、やはり相違もあります。
- 包括遺贈では「代襲」を考える必要がありません。(代襲相続のように、受遺者の子が代わりにもらうことはない。)
- 相続分の指定の場合には寄与分が問題になることがありますが、割合的包括遺贈では寄与分の主張はできません。
- 包括受遺者は、マイナスの財産まで承継するわけですから、相続人と同様に、遺贈の放棄・単純承認・限定承認ができます。相続人と同様に、相続が開始して、自分が包括受遺者だと知ってから3か月以内に手続きをしないと、「包括遺贈を単純承認」したことになります。
- 包括受遺者は、相続人に似ているとはいえ遺留分はありません。
- 包括遺贈については、相続人から遺留分減殺請求を受ける可能性があります。
- 割合的包括受遺者の場合、遺留分侵害の問題があると法的にかなり複雑です。(遺留分侵害のない遺言書内容にしておくほうが無難でしょう。)
- 相続人または他の包括受遺者が放棄しても、包括受遺者が承継する分は増えません。
推定相続人ではないけれども、特別な事情があって、相続人と同様に遺産をあげたいという人がいることもあるでしょう。相続のときに遺産分割協議や相続手続きで相続人が困らないように、よい遺言書を遺してあげてください。