ある銀行のホームページで預金口座を持っている人が亡くなった場合の手続き方法をみていたところ、以下のように書いてあるのをみつけました。(2018年6月11日現在。)
銀行に遺言書を提出する場合
相続の際に「遺言書がある場合」についての記載です。
==以下、引用です。==
▼遺言書が公正証書遺言である場合、記載内容については以下の点に留意してください。
・被相続人および証人 2 名の署名・捺印(実印)があること
・作成年月日、預金等相続財産の相続状況が明確に記載されていること
▼遺言書が自筆証書遺言である場合、記載内容については以下の点に留意して ください。
・被相続人の自筆であり、署名・捺印(実印)があること
・作成年月日、預金等相続財産の相続状況が明確に記載されていること
・家庭裁判所の検認があること
==引用は以上です。==
金融機関での相続手続き
口座名義人が死亡した場合、自動的に相続が開始します。
ただ、銀行は誰が死亡したのか知りませんから、誰かが死亡について銀行に知らせる必要があります。預金を相続によって引き出したりするのですから、知らせないわけにはいかないでしょう。知らせると同時に口座が凍結されますので、相続人は適切な手続きをしなければなりません。
相続が開始したことを銀行に知らせると、相続手続きに必要な書類一式を送ってくれます。その中に、記入の仕方や必要書類が指示されているのが一般的です。
亡くなった人の相続人が遺産の分け方を決めた遺産分割協議書があれば、それを添付する必要があるでしょう。
遺言書がある場合
遺産分割協議書にしたがって財産分与するのではなく、遺言書がある場合は、その銀行預金を誰に相続させるかが書いてあるかもしれませんので、銀行としてはその点について確認します。そのために、遺言書を提出することになると思います。
その遺言書についての説明と注意点が上の記載です。これは法律の規定とは異なります。銀行では独自のルールを定めたり、表記していることがあります。(企業の対応としては理解できないこともないのですが、その結果、不利益を被る人がでる可能性があります。)
遺言書についての法律の定めと一般実務では、以下のようになっています。
(1)公正証書遺言である場合
『被相続人および証人 2 名の署名・捺印(実印)があること』と書いてありますが、一般と異なるのは「実印」というところです。
公正証書遺言を作成するときには、証人2名の署名捺印が必要です。その際、証人の身分確認もします。しかし実印でなければならないということはありません。
(2)自筆証書遺言の場合
『被相続人の自筆であり、署名・捺印(実印)があること 』と書いてありますが、(1)と同様に「実印」というところが民法の規定と違います。
自筆証書遺言は、遺言者が全文を自筆で書き(必要資料など、一部については自筆の必要はありません。)、署名も必要ですし、押印も必要です。しかし、印鑑(印章・ハンコ)の種類についての規定はなく、いわゆる三文判でも認印でもよいのです。高齢とか病気の人が実印登録をしていない場合もあり、それでも遺言書を書いておきたいとなると、当然、遺言書に実印は押せません。
また、印章・ハンコではなく、拇印であっても「押印」と認められた裁判例もあります。(最判平成元年2月16日民集43巻2号45頁)
実印
実印というものは、役所に登録してあるハンコ(印影)です。実印登録した印章が破損したとか、誰かに不当にそのハンコを持ち出された形跡があるなどという場合、役所ですぐに廃印とか改印などがすぐにできます。
仮に、遺言書を自筆で書いて実印を押しても、その後、実印を変更する可能性は十分にあります。遺言書に実印が押してあることが、銀行での相続手続きの要件だとすると、民法の規定と異なることはもちろんですが、日本中で大変なことになってしまいます。
行政書士などですと、銀行と議論になったり、行政書士会を通じて照会をしたりということもありますが、一般の人ですと、銀行に言われたことをそのまま信じてしまうかもしれません。そのために相続で損をした(と、本人は相続手続き終了後もずっと信じている)例もあります。
【実印は危険か】もご参照ください。