遺言書の記載事項
遺言書は、遺言者の一方的な意思表示ですが、死亡後にその意思どおりの法的な効力を発揮させることができます。
ということは、場合によってはかなり大きな影響力を持つといえます。
そこで、間違い・不明確さ・トラブルを防止するために、遺言書で決めておけることを法定してあります。
国によっては、遺言者は遺言書でかなり自由に、多くのことを指定できるようですが、わが国では、以下のことに限定されています。
- 一般財団法人の設立
- 一般財団法人への財産の拠出
- 未成年後見人・未成年後見監督人の指定
- 相続人の廃除や廃除の取消し
- 相続分の指定・指定の委託
- 特別受益持戻しの免除
- 遺産分割方法の指定・指定の委託
- 遺産分割の禁止
- 相続人相互間での担保責任の分担
- 遺贈
- 遺言執行者の指定・指定の委託
- 遺贈の減殺割合の指定
- 信託の設定
- 保険金受取人の変更
以上、列記しました。
覚える必要はありませんので、自筆証書遺言作成のときなど、参考にしながらチェックしてはいかがでしょうか。
また、付言事項として、この遺言書を書いた理由や相続人たちへ言っておきたいこと、などを書き加えることができます。遺留分も渡さないように遺言書に記載しても、相続人に相続欠格・廃除の理由でもない限り、必ず受け取る権利があるのですが、付言事項を書き加えることで、遺留分権利者に遺留分減殺請求をしないよう説得できるかもしれません。
遺言書の内容に間違いがある
自筆証書遺言は、パソコンで作成することはできません。必ず全文を自筆で作成します。
記載を間違えた場合には正式な訂正の仕方があります。内容を間違えた場合は訂正しないわけにはいきませんが、単なる誤字の場合は自分でも気づかないかもしれません。訂正もしないままとなってしまうでしょう。
漢字の「トメ」と「ハネ」までは問題にならないとしても、たとえば「論」を「輪」と書いてしまったらどうでしょうか。遺言書の内容・文面の前後関係で誰がみても明らかであれば、おそらく問題はないと思われます。しかし、少なくとも望ましくないことは確かです。
遺言書の解釈
遺言書は読む人が「解釈」するのではなく、遺言書の内容にしたがって「執行」していくものです。
しかし、たとえば、次のようなケースではどうでしょうか。
Aさんに子Bと子Cがいて、20年前にAはBに親子の縁を切ると言い渡しました。その場にいた人もいるので、大勢が知っていることです。遺言書には
「自分の財産は子に8割、公共団体Dに2割相続させる」
と書いてあるとします。
CはAの子ですから、Cが相続をすることは確かですが、AはBのことを「自分の子だとは認めていない」のですから、AはBに財産を相続させるつもりはなかったことは関係者全員が知っているのですが、問題は、「親子の縁を切る」という制度がないことです。
法的にみれば、自分の子に財産の8割を相続させるということは、BCが全体の4割ずつを相続し、Dが2割を遺贈されることになるでしょう。
しかし、本人がBを子として認めていなかったことは確かなので、AがBに財産をあげる予定はなかったのです。
とにかくBは遺留分をもらうことはできるでしょうが、全体の4割をもらえるのでしょうか。
そして、公共団体が相続することになっていますが、法定相続人でなければ相続はできないので、ここは遺贈と読み替えておそらく問題はないでしょう。
遺言書作成は要式行為
遺言は要式行為といわれ、形式がきちんと整っていないと本来は無効です。民法の相続の規定を「ある程度本人が変更することができる制度」です。
相続と遺贈を書き間違えただけでは無効とはならないでしょうが、たとえば遺言書の作成日を記載していないと無効でしょう。
遺言書の内容に瑕疵がある場合、文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の最終意思・真意を考え、遺言書作成当時の事情や遺言者の置かれた状況を考慮して、遺言者の意思を実現できるようにすべきという考えもあります。そのようなことを述べている判例もあります。
しかし、あくまでも遺言書の文言を第一に扱い、不分明な部分を安易に解釈してはならないということも重要です。遺言書の記載内容を離れた解釈や、遺言書の記載からは帰結されない遺言者の意思を基礎にして解釈してはならないということは判例・学説上も一致しているようです。
いずれにしても、上に述べたような遺言書を作成すると、せっかく書いた遺言書の内容をめぐって、相続人たちは苦労します。場合によっては遺言者の考えどおりにはなりません。
自筆証書遺言は、
- もっとも簡便
- 遺言書を作成したことを誰にも知られないようにできる
- 遺言書の内容を誰にも知られないようにできる
- 料金がかからない
など、メリットはたくさんありますが、上のような問題を考えると心配もあります。もし自筆証書遺言を作成するときには、行政書士等の専門家に一度は相談することをお勧めします。
公正証書遺言の方が無難ですが、用意する資料も多くなったり、料金もかかります。
遺言書を書くときにはいろいろと迷っていることが多いと思いますので、生活状況や将来について心配があるなら、いきなり公証役場へ行くのではなく行政書士にご相談いただくのがもっともよいと思います。
証人も2名必要です。証人は遺言について口外しないのが常識ですが、その点でもし心配があれば、行政書士にご相談ください。証人の手配もいたします。