「うちの場合、財産はほとんどないから本格的な相続手続はないはず」とお考えの人がよくおられます。
銀行預金等を相続人全員で解約することはあるかもしれませんが、この手続は難しくないでしょう。(相続人などの間でどのように分割するかという遺産分割協議は難しいことがあります。)
不動産がある場合は、相続人だけで登記手続きをするのは困難かもしれませんが、自分でなさる人もおられます。
不動産はないという場合も、生命保険にはたいてい加入しておられるのではないでしょうか。今回は、生命保険のことについてです。
生命保険の受取人
ご家族のために生命保険に加入しておられるとして、いくつか契約している生命保険金の受取人を、希望どおりの人にしておきたいとき、本来は、すべての保険を調べて保険会社に連絡して、受取人についての手続を必要に応じてすればよいのですが、遺言書で変更することも可能とされています。
遺言書作成の相談に来られる人は、なるべく急いで遺言書を作成したいということが多いです。いくつかの生命保険に加入しているけれども、保険金額や受取人の確認をするには時間がかかるし、「とにかく全部の保険金の受取人が長女であればよい」というお考えの場合、どうしたらよいか考えてみましょう。
遺言書で受取人を変更
△△年△△月△△日A保険会社との間の生命保険契約(記号番号△△、保険金額△△円)の生命保険金の受取人を長男Bから長女Cに変更します。
保険証書を確認して、上のような内容の遺言書を作成するとよいでしょう。ただし、これで絶対にすべての保険金受取人が必ず長女Cになると断言はできません。
なお、上の遺言書の文中に、
この遺言の遺言執行者として、長女Cを指定します。長女Cは、遺言者の死亡後速やかに生命保険会社に対し、保険金受取人変更の通知をするとともに、所定の手続をしてください。
のように記載しておくことがよくあります。
遺言執行者については【遺言執行者】をご参照いただきたいのですが、以前の民法でわかりにくかった点が修正されました。
遺言執行を専門家に依頼してよいのか
令和元年7月1日の改正民法施行前ですと、「長女Cは遺言執行の任務を専門家に依頼することができる。」のように書くのが一般的でした。そうでないと、遺言執行者に指定された長女が、自分で執行手続をしなければならないような感じがするでしょう。
実際には専門家に依頼(復代理)したいだろうと思いますので、その点を改正民法ではわかりやすく書いています。
ですから、「長女Cは、遺言者の死亡後速やかに(中略)・・・所定の手続をしてください。」というところは書かなくてもよいと思いますが、念のため書いておくことがあります。「念のため」というのは、「法律に詳しい人ならわかる」とか「調べればわかる」ということではなく、一般の人にもなるべく理解されやすいようにということで、大切な心がけだと思います。
遺言書の提出
ここからは相続開始後の話になりますが、通常は遺言書を生命保険会社に提出することはありません。
しかし、上の例では、遺言書で生命保険金受取人の変更について書かれていますので、遺言書を生命保険会社に提示することになるでしょう。こういうことは遺言執行者がやればよいのですが、もし上の例で、長女さんがご自分で手続きなさるなら、保険会社に遺言書の内容を知らせて、生命保険金の請求をしましょう。保険会社の指示どおりに手続きしてください。
遺言書の保管場所ですが、預金通帳などと一緒に自宅に保管してあった場合など、そのオリジナル(遺言書の実物)をそのまま保険会社に郵送しないよう注意しましょう。
保険金受取人が相続人で、相続人の間で遺産分割協議が難航している場合など、生命保険金請求を行政書士が代行することもあります。印鑑証明書、実印、マイナンバーの問題など、ご心配でしたらご相談ください。