遺言執行者

遺言書をこれから作成しようとしている人から、

遺言書には必ず遺言執行者を指定しなければならないのですか?」

という質問を受けることがあります。

遺言書の中に、遺言執行者として誰かを指定しておかなければならないということはありません。指定しておけばメリットもありますし、場合によってはデメリットもありますから、ケースに応じて対策しましょう。

遺言の執行

遺言者亡き後、遺言書を放っておいては遺言をした意味がありません。遺言書の保管方法とも関連して重要なことです。

遺言書の内容には、「相続分の指定」や「遺産分割方法の指定」のように、遺言の効力が発生すると同時に(死亡の時に)決まるものもありますが、たとえば「遺言による認知」とか「遺言による相続人廃除」「遺贈の実現」など、誰かが手続をしなければならないものもあります。このようなことを実現する役目の人が遺言執行者です。

遺言執行者の指定は、単に「誰にやってもらうか決めておくだけ」というより、かなり強力な役割・権限を付与することになります。強力なことができるということは、遺言書の内容によっては、下に書きましたように相続人に嫌われる(?)ことも考えられます。具体的なことは、遺言書作成時などにご説明します。

遺言執行者の指定と選任

遺言執行者は、遺言者が遺言で指定するのが原則です。遺言者に指定されている人が、遺言執行者になることを承諾するかどうかは指定された人の自由なのですが、いつまでも返事がないのでは困ります。その場合は、利害関係人が、「何週間以内に返事をください」と期間を定めて催告できます。
遺言執行者が必要なのに指定されていなければ、利害関係人が家庭裁判所に選任を請求します。

未成年者および破産者は遺言執行者になれませんが、それ以外で行為能力を有する者はなることができます。法人でもかまいません。
遺言執行者の報酬についても決めておくことが可能ですが、ケースによってかなり遺言執行者のする内容が異なりますので、よく検討してください。

遺言執行者に指定されたら

遺言者は遺言執行者を遺言書の中で勝手に指定することができますが、指定された人が遺言執行者になるかならないかは自由なので、もし指定された人が断ると複雑なことになるかもしれません。あらかじめ遺言執行者として指定したい人の承諾を得ておくとよいでしょう。

また、「A氏を遺言執行者に指定するが、A氏が遺言執行者に就任しない場合はB氏を遺言執行者に指定する」という書き方(予備的な指定)も可能です。

遺言執行者を指定するのではなく、指定することを第三者に委託することもできますが、これは必ず遺言によってしなければなりませんのでご注意ください。

遺言執行者の解任と辞任

遺言執行者は、だいたい「委任」という法律行為と同様にみられています。委任では、委任した方も委任された方もお互いに委任を解除することが認められているのですが、「正当な事由」があると家庭裁判所に認められない限り、遺言執行者の解任や辞任はできません。

「正当な事由」に対して「やむを得ない事由」という言葉がありますので、それはトピックス欄に簡単に紹介してあります。

遺言執行者があまりにも任務を怠っていると思われるときは、利害関係人から裁判所に申し出てください。

遺言執行者の報酬

上に書きましたが、遺言執行者はだいたい「委任」という法律行為と同様にみられています。民法上、委任された人(受任者)は無償が原則です。しかし、遺言執行者の場合には報酬を得るのが原則です。

遺言書の中で、遺言執行者を定めて、同時に報酬も記しておくことがあります。報酬の目安として「基本料金 プラス 財産の1〜3パーセント」が多いようです。

遺言執行者の任務は、意外と簡単なこともありますし、相当大変なこともあります。遺言執行者を遺言書の中で指定するなら、引き受けてもらえるかどうかその人の承諾を得ておいたほうがよいことはもちろんですが、報酬も相談しておかなければならないかもしれません。あるいは、相続開始後、相続人と遺言執行者が相談することになるでしょう。

遺言執行者 報酬 川崎

平成30年の民法改正

以前の民法では、遺言執行者の任務の開始として、「遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。」とだけ書かれていましたが、令和元年7月1日施行の改正民法で「遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。」(民法1007条2項)と追加されました。(「遺言執行者が就職を承諾したとき」という「就職」という言葉が不自然ですが、要するに、遺言執行者になってくれませんかと打診された人が、「はい、なりますよ。」と承諾することです。)

改正前もたいていは「自分が遺言執行者となったことと、遺言書の内容」を相続人全員に通知していたのですが、通知しなければならないという明文の規定はありませんでした。ですから、相続人の誰かが苦情を言いそうな内容があれば、知らせずに手続きしてしまった方がスムーズだということもあったでしょう。後から知ったその相続人は一層腹が立つということになりますから、このようにはっきりと条文に書いたと思われます。

「通知しなければならない」と民法1007条2項にはっきりと書かれたのに、もし通知しなかった場合にはどうなるのか・・・「通知しないで行なった場合には無効」だとすると、遺言者の遺志を遺言執行者が台無しにしてしまうわけですから、やはり「通知しないで行なった場合も有効」というのが妥当な考え方でしょう。(いろいろな観点から以上のようになると思いますが、納得がいかなければ訴訟をしてみるしかないでしょう。)

相続人に嫌われる?

令和元年7月1日から改正民法施行ですから、それ以前は「遺言執行者の地位」という民法1015条がありました。「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。」というものです。これが改正され、「遺言執行者の行為の効果」という見出しに変わりました。条文は

「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。」

と変更されました。

上に、遺言執行者は遺言書の内容によっては、相続人に嫌われる(?)こともあると書きましたが、遺言執行者は、遺言書の内容(亡くなった遺言者の遺志)を実現させるのが任務です。ですから、遺言執行者は遺言者の代理人のようなイメージです。

しかし、遺言執行者は、遺言者の代理人ではありません。遺言者は死亡と同時に権利主体ではありませんから、法的行為を誰かに委任することもできないのです。そうすると、その遺言を実現するのは相続人ということになって、遺言執行者は相続人の代理人であるという理屈になります。

ただ、相続人の誰かはその遺言書の内容が気に入らず、「そんな遺言書はなければよかったのに。」「誰かが着々とその遺言書の内容にしたがって手続きしていくのが気に入らない。」「相続人である自分は、その遺言執行者を代理人として依頼した覚えはない。」と言いたくなることもあるでしょう。

遺言執行者はその職務(遺言の執行に必要な行為)を行なう上で、場合によっては訴訟も行ないます。原告にも被告にもなる可能性があります。その結果、遺言執行者は「相続人の代理人」であるにもかかわらず、「相続人」と対立することも十分考えられます。そこで、「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。」とはっきりと書いたということです。

遺言執行者の権限

遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」という規定があるのですが、遺言執行者が相続に関するすべてのことができるとは限りません。相続に関するすべてのことについて遺言執行者の指示に従うものだと思い込んでしまう場合があるようです。

遺言書に相続財産のうちの特定の財産に関することしか書いていなければ、遺言執行者の権利(と義務も)その部分に関してだけです。遺言書に「遺贈」が含まれていれば、遺贈の履行ができるのは遺言執行者だけです。遺言執行者といろいろな相談することになると思いますが、遺言執行者の権限にご注意ください。