遺産分割
どなたかが亡くなると、相続開始し、被相続人の財産に属した権利義務を一切承継します。相続人が2人以上いれば、各自の相続分に応じて相続財産共有することになります。
つまり、死亡があると、相続が開始し、相続人は持分により遺産共有状態となります。
ただし、この遺産共有状態は、遺産分割がなされるまでの暫定的状態です。遺産分割とは、暫定的な共有関係を解消することであり、この共有関係を解消すると、相続開始時にさかのぼって効力を生じます。
相続開始時にさかのぼって有効とされるのですが、「第三者を害さない範囲で」(民法909条)とされています。一般に、この「第三者」とは、相続人同士の取り決め等を知らない人のことをさします。
つまり、どなたかの相続開始後、その遺産はすぐに法定相続人の共有となりますが、遺産分割協議をして相続分が決まると、「共有状態」は無視して、相続開始直後から、遺産分割協議で決めた相続分が適用されるとお考えください。細かな例外はあります。
相続割合
相続割合というと「法定相続割合」を考える人が多いのですが、相続割合は、
- 遺言書で指定
- 遺産分割協議で決定
- 調停による分割
- 審判による分割
があります。
遺産の分割は、「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」ことになっています。
遺産分割協議では、特別受益や寄与分についても協議なさってください。
「一切の事情を考慮」とはいっても、現実に何をどの程度考慮するのかということになると、私の個人的感想ですが、むしろ、「特別な事情は考慮されない」と考えておいた方が無難かと思います。
相続財産
被相続人の財産でも、
- 相続の対象とならないもの:一身専属権
- 遺産共有とならず、各相続人に分割承継されるもの:金銭債権・債務
があり、他に、
- 相続財産のようでありながら、相続財産でないもの:生命保険請求権など
がありますから気をつけましょう。
相続開始後、遺産分割前に(遺産分割協議で割合等を決める前に)、暫定的な持分権があります。
持分は暫定的なのですが、これを自由に処分することができます。相続人の債権者は、相続人の持分に対して差押えもできます。
相続財産の中に、たとえば賃貸マンションなどがあると、被相続人の死亡後、遺産分割が成立するまでに家賃(法律用語では「果実」といいます)が生じます。この家賃収入は相続財産ではありません。相続人の共有物ですから、相続分に応じて受け取るのが原則です。
遺産分割の方法
遺産が物品であれば現物を分けることもありますが、分けられないものもあります。遺産分割の方法としては、以下のものがあります。
- 現物分割:もっともシンプルです。実物を分けます。500グラムの地金が3つあって、3人で均等に分けるなら、ひとりが1個ずつです。
- 一部分割:遺産が非常に多いとか、相続税の納付のためにまず一部分を先に分割しておきたいなど、全財産を一度に分割できない場合などに使います。
- 換価分割:遺産を分割せずに売却して、金銭で分けます。分割すると値打ちの下がる財産や、評価額より高く売却できる財産を相続するには適しているでしょう。ただし、売却手数料や税金など、綿密に計算しないと思わぬ出費となるかもしれません。また、どうにも話し合いがつかないから、換価することもあります。
- 代償分割:誰かが相続分を超えて、あるいはその財産を全部相続する代わりに、他の相続人には相応の金銭を支払って公平をはかるものです。財産の分割が難しい場合や、現在住んでいる土地建物をひとりが相続する場合などによく使われます。代償分割は、相続人の中のある人がたとえば不動産をまとめて他の相続人から買い取って、他の相続人に相応の金銭を支払うようなものです。手続きを間違えると、税金面で不利益を被るなど、後で取り返しのつかないことにもなりかねません。遺産分割協議書をきちんと作成してください。また、まとめて譲り受ける人が、他の相続人に相続分相当の金銭を渡すのですから、それだけの金銭を持ち合わせていなければ使えない遺産分割方法です。
- 価格賠償:全面的価格賠償ともいいます。諸事情を考えて、相続人の一部(たとえばひとり)に全部相続させ、他の相続人には金銭を支払うもの。ある程度の反対があってもするもので、いつも価格賠償が可能とは限りません。
債権を相続
相続財産は、不動産(土地・建物)・動産(不動産以外のもの)・預貯金等の現金などの他に債権・債務もあります。債務は借金だと思えばよいので、多額なようであれば相続放棄も考えたほうがよいでしょう。ところで、債権の相続といわれても、イメージわかないかもしれません。
相続開始によって、相続人の間で遺産分割協議をすることになります。亡くなった人(被相続人)が、他人に対する債権を持っていたとすると、その他人に対する権利についても相続されます。要するに、被相続人が、貸金返還請求権などを持っていると、相続人がその貸金を請求できます。
遺産分割協議で、相続人Aは1千万円相当の土地をもらい、相続人Bは1千万円の貸金請求権をもらえば、遺産分割としては平等なずです。
ひとつ心配なのは、その時点では「貸金返還請求の権利」であって、現実にその現金が手元にあるわけではありません。債務者が支払わないとか、債務者に返済能力がなければ、1千万円の土地をもらった相続人とくらべて公平ではありません。
そこで、遺産分割の時点で、その債務者から回収できない分は、相続人の間で公平になるように調整することができます。(民法192条)
遺産分割の時点で、まだ弁済期が到来していなかった場合は、弁済期での債務者の資力に応じて、相続人の間で公平になるように調整します。
遺産分割協議終了時点で既に弁済期であったのに、請求が遅かったせいで、債務者が弁済の資力を失ってしまったという場合は、相続人の間での調整はしないことができます。相続人が適切に請求をしなかったので、自己責任ということになります。
このように、権利があるのに、「あまりきついことは言いたくない」という態度ですと、法律ではどんどん権利を失っていきます。権利の上に眠るものを保護せず、といいますが、本人としては権利の上に眠っていたのではなく、人間関係を慮って(遠慮して・和を重んじて)強く主張しない慣習であったためでも、その点を法は考慮してくれません。おとなしい人が損をします。
おとなしい人が損をすると言いましたが、では、怒ればいいのかというとそうでもないようです。おとなしい人が怒ると、経験不足のせいか、普段とのギャップが大きいせいか、逆効果になることが多いと思います。
おとなしい人が、特に遺産分割協議で大きな声で発言しなくても、だいたい納得できる内容にしたい場合には、専門家に、相続人みんなで遺産分割協議書作成業務を依頼して、まず案として一般的な遺産分割協議書を作成てみるとよいと思います。
不在者や胎児
相続開始後、法定相続人特定の作業をしますが、人間関係が複雑なこともあります。法定相続人だけれども行方がわからない・連絡が付かないので遺産分割協議に呼べない・胎児には相続権があるけれども、胎児は協議することなどできません。その場合ですが、
- 不在者:相続人の中に不在者がいれば、財産管理人を選任することになります。
- 胎児:人は出生から権利を取得しますが、出生前にも胎児には相続権があります。しかし、生きて生まれなければ権利が生じないので、相続権は初めからなかったことになります。そうしますと遺産分割協議が複雑になりますので、一般的には胎児の出生を待って遺産分割協議をするようです。
遺産分割の立会い
遺産分割について話し合うのでしたら、手続き等についてのアドバイスのために同席することもできます。司会者のような第三者がいた方が協議がスムーズかもしれませんが、「専門家を依頼した相続人の味方をするのではないか。」「特定の相続人に有利なようにするのではないか。」と考える人がいると、同席はできません。
遺産分割協議(遺産分割のための話し合い)は、相続人全員が一堂に会さなくてもできることです。あらかじめ、それぞれの意向をお聞きしておくこともよいと思います。
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