財産権
近代私法の三大原則として、以下のものがあります。
- 権利能力平等の原則
- 私的所有権絶対の原則
- 私的自治の原則
相続という財産権もかなり強く守られていると思います。たとえば、3人いる子供のうち、「長男に全部相続させる」という遺言書を作成しても、他の2名が「自分たちに遺産がないのはおかしい」ということであれば、それなりの手続きは必要ですが、必ず守られる「遺留分」があります。
ですから通常は、相続権が失われる心配はありません。不公平感は残るかもしれません。
欠格事由
配偶者・子・親・兄弟などは順位にしたがって法定相続人となるのが普通ですが、場合によっては相続権を失います。「相続欠格」といって、本来は相続権があるのに相続する資格を失う場合があり、その理由が欠格事由です。
条文によりますと、
- 故意に、被相続人・相続について先順位、同順位にある者を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために刑に処せられた者。
- 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、または殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
- 詐欺、または強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、または変更することを妨げた者。
- 詐欺、または強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者。
- 相続に関する被相続人の遺言書を偽造、変造、破棄し、または隠匿した者。
などがあります。共同相続人である兄弟姉妹などに嘘を言ったからといって、ペナルティーとして、相続権を失うことはなさそうです。
相続で不正をしたら
- 「税理士さんに聞いたんだけど、相続のときにはみんなでこの書類に署名するんだってさ。」といわれて署名したら、「生前に特別受益をたくさん受けたから、もう相続財産はいらない。」という内容の書類だった
- 親が付けていた帳簿で、生前にどの子にいくらあげたと書いてあるノートが出てきたというが、他の相続人が作ったインチキ帳簿だった
これらは相続で不正に利益を得ようとする悪いことだと思いますが、相続する権利を失うものではないでしょう。
親族のものを盗んだら
相続に限らず、刑法一般の規定ですが、窃盗罪、不動産侵奪罪、詐欺罪、恐喝罪、横領罪などを親族(直系血族・配偶者・その他の同居親族)の間で犯した場合、刑罰を免除されるという規定があります。
親族相盗例といって、犯罪が成立しないという説と、犯罪は成立するが家族間のことなので免除するだけという説があります。
上の例のように、共同相続人(自分以外の相続人)に嘘を言って書類に署名捺印させても、嘘を言った人が相続権を失うことはないと思われます。もちろん、「嘘をついていい」と言っているわけではありません。
どなたかが亡くなると相続が開始し、遺産は相続人のものとなります。遺産分割協議が始まらないうちに、被相続人の家にあったものを勝手に持ち出す相続人がいますが、これも窃盗になることはないと考えておく方がよいでしょう。
親の通帳・現金
年をとるとほとんどの人が忘れっぽくなったり、いろいろな手続きが面倒になります。
同居している子に、お金や通帳をみんな預けて、管理してもらっていることがよくあります。
管理してもらっていなくても、親自身がやらないから子が代わりにやっていることはたくさんあります。
相続のときになって、親の財産の面倒を見ていた子(相続人)と、他の子(相続人)が、
- 親の通帳を勝手に使ったとか、
- 親の現金を使った
ということで、遺産分割協議で意見をまとめるのに時間がかかることもあります。
廃除と遺言書
ですから、相続で問題が生じそうなら、あらかじめ遺言書を遺して、相続人たちが納得いくように財産の分け方などを指示しておくことをお勧めします。
また、おそらく相続人となるであろうという人に、どうしても財産を譲りたくないということもあるでしょう。条文によりますと、
- 遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
となっています。本来は相続人である人を、相続人でないことにする手続きですから重大なことです。家庭裁判所に請求して、認められなければなりません。遺言書の中で「廃除する」と書いた場合も、廃除を相続人や遺言執行者が家庭裁判所に請求します。