代理人
人に代わって、法律行為をする場合など、よく「代理人」が登場します。代理人とは代理をするひとですが、「代理」についてもう少し厳密に言うと、
「本人に代わって別の人が意思表示を行うことにより法律行為を行い、その効果が本人に帰属する制度」
ということになります。代理人となって、誰かの代理をすると、その代理人のした法律行為は、本人(代理人を依頼した人)がしたのと同じことになります。代理人が判断を誤ると、本人がその責任を負わなくてはなりません。
本人が意思表示をして、それを「伝達するだけの人」は使者といって、代理人とはかなり違います。
代理には、法定代理と任意代理があります。
- 法定代理:子供が生まれたら、その子は自分の判断で法律行為ができませんから、子が大人になるまで親が代理をするのが普通です。これが法定代理の典型例でしょう。法律の規定で代理権が発生します。
- 任意代理:自分でやってもよいけれども、自分より詳しい人がいるなら、その人に任せた方が安心です。訴訟で弁護士を依頼するのが典型例でしょうか。委任契約などをするのが普通です。
特別代理人
以下、法律的に厳密な解説ではありませんが、「特別代理人は、どういう場合に必要になるのか」「財産管理人とどう違うのか」ということは相続相談でよく尋ねられますので、多少イメージがわくように概略をご説明しておきます。
本来の代理人が、何らかの事情で代理権を行使できないことがあります。未成年の子が法律行為をするにはいろいろ条件が必要で、通常は、親権者(両親)が代理するようなことです。
たとえば、Aさんが死亡して、相続が開始すると、妻のBさんは相続権があります。AとBの子であるC(未成年とします)も相続権があります。BとCはどのように相続権について権利行使するでしょうか。
相続権について権利行使というと、すぐに思い浮かぶのは遺産分割協議です。遺産分割協議では、「法定相続分はいくらか」ということも問題になりますが、まず優先するのは、相続人の考えです。
相続人の考えが一致しないと、その解決策として法定相続分で決めようということになるでしょう。
未成年者のCは、遺産分割協議で権利行使が十分にできるでしょうか。
未成年者でも人によっては、たとえ16歳でも非常に優秀で、平均的な大人よりも優れた判断力を有しているかもしれません。しかし、そういうことを言いはじめると、未成年者全員の判断力検査が(可能かどうかわかりませんが)必要です。
そこで、20歳未満(2022年4月1日以降は18歳未満)の人は「判断力が足りないことにしてしまいましょう。」と、十把一絡げにしてしまいます。
上の例で、遺産分割協議をすると、相続人はBとC(未成年者)ですから、単純に考えると、B(親)がC(未成年の子)を法定代理して、Cの代わりにBがすべてやってあげればよいのです。
しかし、Aの財産をBとCで分けるのですから、Bが「Cは子供だから、お金はたいして必要ありません。私がAの遺産を全部もらっておきます。」ということは現実にありそうです。Cが大人になってから、渡してあげるつもりなのかもしれません。
しかし、法律ではそう考えておらず、Bが独り占めして、Cが損をするかもしれない、と疑います。
「B」と「Cの代理人B」が契約をすると、Bの好き勝手にできることになります。このような状態を「BとCは利益が相反する」といいます。親子間で利益が相反するのに、特別代理人を選任せずに、親権者が子を代理して行なった場合には、「無権代理」となります。
親子間の利益相反行為とは、親権者にとって利益であり、未成年者にとって不利益な行為をさすので、親権者が子に対して負担のない贈与をする場合には、未成年者にとって利益になるだけなので、特別代理人の選任は不要とされています。
ひとりっ子のCに相続財産をたくさんあげようとBが考えて、「BはAの遺産をまったくもらわずに、全部Cに相続させる」なら、Bが不正をしているようにはみえないかもしれませんが、相続財産の中には負債もある可能性があるので、Cが未成年なら、こういう遺産分割協議も特別代理人なしには認められないでしょう。
法的には、BとCが対等に話ができるように「Cの代理人」を家庭裁判所が選任して、Bと「Cの代理人」が協議をするのが原則です。
そして、実際には本人の代わりに判断・意思表示をして、法律行為を成立させるというよりは、交渉はせずに形式的に指名されているだけのイメージがあるかもしれません。
特別代理人がいないと法律行為が無効になったりしますから、注意が必要です。
上にみたように、相続で代理人が必要になったりすると手続きが複雑になり、相続手続きの費用も増すかもしれません。そのような心配があれば遺言書を作成しておくことをお勧めします。