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内容証明の誤解
内容証明郵便を送付するとどのような効果があるかわかりにくいので、いろいろと誤解が生じているようです。
- 内容証明は好き勝手に書くだけなので、拘束力もなく、回答の義務もないので、放っておけばよい。
- 内容証明を放っておいても、自分が非を認めたことになるわけでもなく、怖くも何ともない。
どちらの意見も半分は正しいといえます。回答の義務はありませんし、特におそれる必要もありません。しかし、解決への提案や誠意を示しているのに、放っておけば解決しないだけでなく、かえって悪化するでしょう。
悪化にもいろいろありますが、法的に負けるだけでなく、人間関係が悪くなるとか、評判が悪くなるとかということもありえます。
- 内容証明を送っても、問題は「その後の裁判」なので、もともと内容証明など送る必要はなく、手紙でも電話でもよい。
この考え方も良いとは思えません。訴訟には費用・時間・気力などが必要です。「事実関係からして、裁判官の判断を仰ぐまでもなく、どちらの言い分が正しいかは明らかである。だから、訴訟を起こすのはお互いにデメリットが大きい。そこで示談書を交わしませんか」、という意味で発送することが多いです。訴訟をするくらいなら、お互いに譲歩し合った方が、お互いの「痛手」が小さくて済むことがほとんどです。
ですから、もし訴訟をした場合でも勝訴するだけの要素は必要です。訴訟を前提としなくても、相手に非があることを明確に示せば内容証明の効果が発揮されます。内容証明のあとには、示談・示談書が大切です。
このことを踏まえて、以下、お読みください。
内容証明郵便の役割:やるべきことをしない人を法は助けない
内容証明郵便はいろいろなことに役立ちます。
- 通知内容を公的に残す
- 自分の主張を理路整然と伝える
- 事実関係を確認しておく
- 裁判官に判断してもらうまでもなく、明白なことについて念を押しておく
などたくさんあります。「カドが立つ」から出さないという人は減ってきていると思います。実際、話し合っていると、お互いに勘違いがあったり、途中で主張が変わったり、その場の雰囲気で何か決めてしまって後で後悔する、というようなこともあります。内容証明は「そもそもの経緯」や「主張(の変化)」を整理しておくのにも役立ちます。
話し合いや議論の苦手な人は、内容証明郵便の方が落ち着いて考えてから送付しますから、スマートですっきりしていて、送る方も受け取る方にもメリットがあります。
行政や他の分野でも、個人の権利を重視するという習慣(憲法の精神)を根付かせようと、いろいろな試みをしています。権利主張には内容証明郵便は最適と言えるのではないでしょうか。
「カドが立つ」から内容証明を出さないのではなく、「カドを立てないために」内容証明を出すともいえます。
また、不安な事柄があるときに、公的な内容証明郵便で確認しておけば安心です。
内容証明郵便を出しておけば、いざ自分の権利を守る、というときに役に立ちます。ということは、トラブルの防止にもなるのです。
内容証明の基本的な使用例は【内容証明使用例】に紹介しています。
何をされても黙っていますか
また、いくら自分が「丸く」ても、「カド」は向こうからやってくることがあります。自分が清く正しく暮らしているつもりでも、何らかの損害を被ることもよくあります。
何をいわれても、何をされても、自分が一方的にすべて我慢するなら別ですが、それが立派な態度だとも思われません。なすべきことはきちんとしましょう。
口約束でよいのが原則
わが国では契約等は意思主義といって、口約束だけで成立するのが原則です。
「この土地を3千万円で私に売ってください。」
「はい、わかりました。あなたに3千万円で売ります。」
というやりとりだけで、土地売買の契約は成立します。しかし、後日、3300万円だったはず、とか、いえ、2300万円でしょう、という果てしない議論にしないために契約書を作るのは皆さんご存知のとおりです。
証拠がないのでは、権利を主張した側もされた側も、自分にとって不利なことは、後日、「言わなかった」、「聞いてなかった」と言い張ることができてしまいます。
そこで、客観的にその証拠を保存しよう・事実を残そうという意味でも内容証明郵便が使われます。
通知と日付が必要な場合も
また、法律上、通知をしなければならないものや、日付が重要な意味を持つ場合には内容証明郵便を使います。たとえば、
- 建物賃貸借において当事者が一定期間内に相手方に対して更新しない旨の通知をしないと賃貸借は更新したものとみなされる。
- 売買の予約をしている場合に、本契約とするためには予約完結の意思表示をしなければならない。
- 相手方の債務不履行があるとき、契約関係を解消するなら正式に「解除」の「意思表示」をしなければならない。
- 割賦販売法等による、クーリング・オフによる申し込みの撤回又は解除では日付けが重要。
- 債権譲渡は債務者に通知をし、又は債務者が承諾をすることで債務者に対抗できるが、第三者に対しては通知または承諾に確定日付がないと対抗できない。(「対抗できない」とは、法律上の権利主張ができなくて、法的に負けるということです。)
- 時効中断として権利行使をする場合、正式な手続が必要。
以上のようなものがあります。
内容証明郵便の使い方
いずれにしても、内容証明郵便で自分の正当な権利を主張したり、損害賠償を求めるなら、それを無視されたり否定された場合、法的措置も辞さないという覚悟をもってください。「覚悟」のある内容証明は相手にもあなたの「覚悟」が伝わります。
内容証明郵便を送付しても裁判になるわけではありませんが、裁判も辞さない覚悟は必ず必要です。初めから裁判をするつもりなら弁護士事務所へ依頼してください。行政書士は裁判はしません。行政書士は依頼人の主張に基づいて、聴取した事項を整理して書面化します。内容証明郵便の作成を代理します。この点は、面談の際にご説明します。
簡単な例でよければ【内容証明の実際の使用例】もご参照ください。
実際には、基本事項を組み合わせて内容証明にすることが多いですし、世の中にまったく同じ事例はありませんから、その都度、工夫するしかありません。
内容証明の目的は
内容証明は自分で書けるならその方がよいのですが、立腹しているときや動転している場合に、ピントのずれたことを書いてしまって、後から取り返しのつかないことになることがあります。法律の規定にはずれたことを書いてしまう人もいます。最悪の場合、かえって損をすることになりますから、ご自分で書く場合はお気を付けください。
「何のために、何を書くのか」ということは、意外と本人は気づきにくいのです。
たとえ真実でも
また、たとえ真実でも根拠のないことを主張しても、相手にされませんから、悔しい思いをするだけでしょう。当事務所では裏付け資料がないかどうか等を検討しながら作成します。
「ことば」の持つ怖さ
さらに、私がいつも思っているのは、相続や離婚の話を当事者だけで腹を割って話してはだめだということです。
他人がいないから遠慮がなく、当事者で腹を割り過ぎて、つい言い過ぎてしまうからです。嘘を言う人もいます。後日、「言った、言わない」「言ったけど、勘違いでした」「売り言葉に買い言葉でした。」という例は多いのです。
生活上のトラブルは、たいした問題ではなかったものが、どこかでとんでもない方向にすすんでしまうことがありますから、うまく話せないようでしたら、内容証明郵便(内容証明でなくても書面)がよいと思います。
ゴリ押ししない人は損?
よくあるのは、「私はそのようには言っていないが、あなたが勝手にそのように解釈した。一旦了承した以上、変更は許さない。」という主張をする人がいます。このような主張は、よく検討すれば覆すことができる場合が多いのですが、真面目な人ほど、こう言われると反論しないようです。
もっともらしいことをたくさん話す人に対抗するのは難しいかもしれません。このような議論で迷路にはまってしまわないうちに内容証明を利用なさったらよいと思います。
書類を「感情」で書かないように
重要なことを書面にするのは非常に難しいことです。相続・遺産分割協議や契約書や示談書をお引き受けするときには、事情を聞いて、下書きを作り、そして検討、という作業を繰り返します。結果的に「1枚の書面」でも、そこに行き着くまでには、かなりの量の検討作業があります。まず、ご自分で書く前にご相談ください。契約書も示談書も内容証明も同様です。
内容証明郵便の形式
内容証明郵便は誰でも書けます。1ページの文字制限等がありますが、難しいことではありません。日本郵便のホームページに詳しく説明があります。
実務上の留意点をいくつかご紹介します。
- どのような事実があるのか
- 自分は何を伝えておきたいのか
- 第三者が読んでもわかる書き方・内容か
- 法的にはどんな内容が必要か
- 迂闊なことを書いて、かえって自分を不利にしていないか
内容証明郵便は一般的には以上のことでよいとよいと思います。
ご自分で内容証明郵便を送る場合、自分に不利な事実を敢えて書く必要はないと思いますが、事情や法律を間違えて理解していて、不適切なことを書いたために自分を不利にしてしまう例が見受けられますのでご注意ください。
解決後の示談書
内容証明を送り、そこで意見交換し、当事者間で解決した場合、後に、その約束を守らない・解決したはずの問題を蒸し返すことのないように、示談書・合意書のような書面にしておくべきでしょう。
示談書・合意書につきましては、【示談書】をご参照ください。
「紙」と「職印」
内容証明をインターネットで送ることもできます。(しかし、発送手続きは非常に煩雑です。)
彩行政書士事務所では、原則として従来の「紙」のタイプを利用します。電信を用いるより、やる気と覚悟が相手側に伝わると考えるからです。